ANA対JALのシェア争いを学ぶケースではない

佐藤 この教材には、日本の航空業界の歴史も詳しく書かれているため、日本では「業界二位が一位を逆転した事例として取り上げられた」と報じたメディアもありました。このケースはANA対JALのシェア争いを学ぶ事例でもあるのでしょうか。

チュン それは誤解ですね。このケースはグローバル化を前提とした製品政策を学ぶためのケースであり、競争戦略を学ぶためのケースではありません。

 これはANAだけではなくJALにもいえることですが、 日本の航空会社にとってグローバル市場でのシェアの獲得は喫緊の課題なのです。日本のエアラインのサービスは素晴らしいし、食事も素晴らしい。ところが、残念ながら、ブランド知名度という点では、他国のエアラインに劣ってしまいます。日本人以外の顧客に日本のエアラインの良さがうまく伝わっていないのです。だからこそ両者ともに、今、海外マーケティングに注力しているのです。

ANAが世界に羽ばたくには、「日本」のエアラインであることをもっとアピールする必要がありそうだ
Photo by Toshiaki Usami

佐藤 ブランドの認知という点では、学生から「ANAはオール・ニッポン・エアウェイズという名前で損をしている」、という意見も出たそうですね。「ニッポンといわれても、どこの国の航空会社か分からなくてLCCかと思った」と発言した学生もいたと聞きました。

チュン 確かに、アメリカで、NIPPONが日本だと分かる人はほとんどいませんね。私も最初は分からなかったですから。

佐藤 そうでしたか。社名にニッポンとつく会社は他にもたくさんありますが、それが日本の国名だとは分からないわけですね。ANAは名前を変えるべきだ、という意見は出ませんでしたか。

チュン そういう意見は必ず出るのですが、あまり賛同されませんね。なぜならエアラインの名前を変えるというのは大変難しいことだからです。名前、イコール、ブランドです。ANAには何十年にもわたって築いてきたブランドがあり、それを変えることのデメリットのほうが大きいのです。

佐藤 なるほど。ということは、効果的なプロモーション方法で、「日本」のエアラインであることをアピールすればいい、ということですね。この事例は、学生にとってどのように役立ちますか。

チュン ハーバードの学生は、将来、ビジネスリーダーとして活躍していく人たちです。ビジネス上の課題に対して、創造的に、かつ、戦略的に考える力を養うことを主眼において、私たちは授業をしています。

 ANAのケースでは、縮小している市場から拡大している市場へとターゲットをシフトする際に、どのようなマーケティング戦略を考えればいいのか、を学ぶことができます。

 こうした事例は日本企業だけではなく、他国の企業でも見られますから、学生は様々な状況で学んだことを応用できるでしょう。ANAと同じような問題に直面すれば、課題を分析して、全社のマーケティング戦略と沿うような製品政策を考えることからはじめればいい、ということが分かります。