実は、研修講師になりたてだった私は、講義の内容を「こなす」だけで精一杯でした。失敗しないかどうか、うまく話せるかどうか、そればかりを気にして、知らず知らずのうちに緊張していたのだと思います。そして、少しでも自分をよく見せようとしていました。全身に力が入っていてガチガチでした。

 緊張というものは伝染します。こちらが緊張していると、相手もそれを敏感に感じとります。緊張している状態というのは、心の窓が閉じて、自分と相手との間に壁をつくっている状態でもあります。人はこの壁を敏感に察知します。相手が自分に対して壁をつくっていると感じるときは、同時に自分自身も壁をつくっていることが多いのです。

 スリッパを飛ばしてしまったことで、私の緊張や、自分をよく見せようという気持ち、すなわち心の壁はすっかり消えました。そして、私の心の壁が消えたことで、受講者の心の壁も消えたのでしょう。その結果、私と受講者のみなさんは一歩、近づくことができたのです。

「ダメなところは見せたくない」
という気持ちが他人との壁を大きくする

 次の図を見てください。

 これは、心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムによる「ジョハリの窓」というものです。彼らによると、「人には4つの心の領域がある」とされています。

 O「開放した領域」……自分も他人も知っている領域
  B「気がつかない領域」……自分は知らないけれど他人は知っている領域
  H「隠した領域」……自分は知っているけれど他人には知られていない領域
  D「わからない領域」……自分も他人もわからない領域