それでは、もう1つ重要な経営資源である「人」や人の持つ「知恵」についてはどうであろうか。これに対してはもう1つのクラウドであるクラウドソーシングが有望な解を提供するであろう。クラウドソーシングは、かつて従業員によって実行されていた機能を、公募するような形で不特定の人々のネットワークにアウトソーシングするものであり、役務だけでなくビジネスアイデアなどの知恵についても外部に求めることができるモデルだ。

 これまで粛々と遂行していた既存事業に関わる業務のすべてが置き換えられるかどうかはわからないが、少なくとも迅速に立ち上げ、見込みがなければすぐに縮退する可能性がある新規事業については、完全自前主義よりもクラウド・ソーシングの方が相性が良いことは明らかである。

 初期のクラウドソーシングは、データ入力などの比較的単純な役務の調達と、ホームページ作成、アプリ開発、ロゴやチラシのデザイン、翻訳といった専門的スキルを持つ人の短期的活用が中心であったが、昨今ではアイデア公募、アイデアソン/ハッカソンなどにより広く一般の人々の知恵を活用しようとする動きが活発化している。

 三菱東京UFJ銀行では「Fintech Challenge」と称したアイデア公募を2015年から開催しており、2016年には「より身近で便利なIT×金融のサービスづくり」をテーマとしてアイデアソン/ハッカソンを実施するとしている。また、2015年12月には「クルマをITデバイスとして捉え新たな価値を創造せよ。」を合言葉にしたMotors Hack Weekend 2015が、トヨタ自動車や日産自動車の協賛で開催されている。

 ビジネスモデルの創出や新規事業企画といった極めて戦略性の高い業務においても、企業は外部活用の機会を模索しており、自前主義は衰退しつつあると言わざるを得ない。2016年は、ユーザー企業(非IT企業)が本業分野のイノベーション創出を狙った知恵の外部活用を推進するハッカソン元年となると予測する。

 また、新規ビジネスを創出したり、起業したりする場合は、一定の資金が必要となるが、これについてもクラウドファンディングによって外部の力を活用することができる。これは、資金を潤沢に保有する大企業だけでなく、創業間もないベンチャー企業や中小企業、さらにアイデアだけで勝負する個人にもビジネス創出のチャンスがもたらされることを意味する。

 企業は、あらゆる業務について、自社の従業員で賄うか、外部リソースを活用するか、はたまたAIを搭載した機械に委ねるかを選択する時代となるだろう。また、投資や収益配分に対する考え方も変わってくるだろう。そうなれば、最終的に何をコアコンピタンスとして自社に残すのかがあらためて問われることとなろう。また、その時には、「雇用」や「就労」の概念や社会通念は大きく変容することを意味する。「会社」という枠組みや、その中の「組織」のあり方も多様性を持って考えなければならない。

 2016年は、デジタルテクノロジーによって加速されるパラダイムシフトの幕開けの年となるのではないだろうか。それは、これまで長い時間をかけて、主に先進国が構築してきた経済システムや企業の組織形態などが制度疲労を起こしてきているため、新たな秩序が求められていることにも起因している。