労働法は「労働者は弱い」
という前提に立っている
まずは、労働法の基本的な「考え方」について知っておく必要があります。
「会社(使用者)は強い」
「労働者は弱い」
「だから労働者は保護しなければならない」
日本の労働法は、この三段論法が前提になっています。第3回でご説明したとおり、課長は法的には労働者側、経営的には会社側という微妙なポジションにあります。そのため、労働者側で権利を主張するときには労働法の後押しを受けられますが、会社側で部下のマネジメントを行う際に不適切な行動をとると、労働法にストップをかけられることになります。
まずは、どうして「会社(使用者)は強い」「労働者は弱い」という考え方になったのかを簡単に押さえておきましょう。
労働者(従業員)と使用者(企業・事業主)との間で、「働きます」「雇います」という約束(労働契約)が結ばれたときから、労使関係が始まります。
契約を当事者の自由に任せて、国家はその契約に干渉してはならないとする近代法の原則「契約自由の原則」に基づき、どういう条件で働くかなどの契約内容は、使用者と労働者の合意で決めるのが基本です。
しかし、当事者間で自由に契約が結ばれると、労働者に不都合が生じる可能性があります。労働者は雇ってもらわなければ生計を立てられませんから、給料や労働時間に不満があっても、会社の提示条件で契約せざるをえないかもしれないからです。賃上げ交渉しても、「働き手はほかにもいるから嫌なら辞めて良い」と言われてしまえば会社の条件に従うことになりかねません。
このように、労働契約がまったくの自由に結ばれると、会社より弱い立場にあることが多い労働者は、低賃金、長時間など劣悪な労働条件の契約を結ぶ可能性があります。
そこで労働者を保護するために、労働法が定められました。労働契約に関する契約自由の原則は、労働法によって、労働者に有利な方向へ大幅に修正されているのです。
労働問題専門の弁護士(使用者側)。1994年慶応大学文学部史学科卒。コナミ株式会社およびサン・マイクロシステムズ株式会社において、いずれも人事部に在籍。社会保険労務士試験、衛生管理者試験、ビジネスキャリア制度(人事・労務)試験に相次いで一発合格。2004年司法試験合格。労働問題を得意とする高井・岡芹法律事務所で経験を積んだ後、11年に独立、14年に神内法律事務所開設。民間企業人事部で約8年間勤務という希有な経歴を活かし、法律と現場経験を熟知したアドバイスに定評がある。従業員300人超の民間企業の社内弁護士(非常勤)としての顔も持っており、現場の「課長」の実態、最新の労働問題にも詳しい。
『労政時報』や『労務事情』など人事労務の専門誌に数多くの寄稿があり、労働関係セミナーも多数手掛ける。共著に『管理職トラブル対策の実務と法 労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ』(民事法研究会)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』『新版 新・労働法実務相談(第2版)』(ともに労務行政研究所)がある。
神内法律事務所ホームページ http://kamiuchi-law.com/