経営不振に陥ったシャープの再建にあたっては、スポンサーの座をめぐって、台湾の鴻海精密工業(以下「鴻海」)と産業革新機構(以下「機構」)の競争になったが、2月25日、シャープの取締役会は全会一致で鴻海の支援を仰ぐことを決議した。
その後も潜在的債務をめぐって協議が続いており、鴻海の再建案に修正が加えられる可能性があるほか、最終的に増資が実現するかどうかは株主総会で承認されるまで予断を許さないが、本稿では、「鴻海と機構の両案における受益者の違い」に焦点を当てて、その妥当性を検証してみたい。
株主利益を代表しない銀行が
シャープの舵取りを担ってきた
シャープが数年前から経営危機に陥った直接の原因は、主として堺と亀山のディスプレイ工場への巨額な投資にあると考えられる。だが、経営の混乱の裏には元社長同士の確執があったと言われており、同社のコーポレートガバナンスに弱さがあったことは否めない。
そこに、2013年6月、メインバンクであるみずほコーポレート銀行と三菱東京UFJ銀行が取締役を送り込んでいる。その後、人選は変化したものの、現在に至るまで銀行出身の取締役が2名いる状態に変わりはない。しかも、銀行から送られた取締役は常勤で経営管理・経営企画を担当する執行役員も兼ねており、経営の中枢を担うポジションを占めている。
さらに、メガ3行が実質的に支配するジャパン・インダストリアル・ソリューション(JIS)からも現状2名の取締役が送られているので、13人の取締役のうち実に4人が銀行関係者ということになる。それに加え、銀行は長年、同社に部長級の人材も送っていたとされており、シャープの経営方針は銀行が決めていたと言っても過言ではない。
もちろん13人中4人では多数を取ることはできないのだが、シャープはかつてのように資本市場から資金調達ができる状態ではなく、銀行からの融資で資金繰りを付けている状況にあるため、実態的には取締役会で銀行出身取締役の意に反する決議は取りにくい構造になっていたことは否めない。
ところで、連載第54回で指摘したように、取締役は本来、株主の利益を代理するのが基本的な役割である。すなわち、取締役は株主から経営を付託された者(エージェント)としての責任(受託者責任)を負っている(エージェンシー理論)。したがって、取締役が会社をどのように経営するかということは、この受託者責任を十全に果たせるかどうかという観点から検討されなければならない。
ところが、銀行出身取締役は、銀行の利害を代弁すると考えるのが自然であり、一義的には株主の利益より銀行の利益を優先することになる。ここにシャープの取締役会が抱えている根本的な利益相反構造がある。すなわち、シャープの舵取りは、株主の利益を代表しない銀行が実質的に担ってきたのである。