日本の家電は世界一――。日本人がそう自負していたのも、今や昔の話だ。米アップルや韓サムスン、そして台頭する新興国メーカーなど、海外勢とのグローバル競争で体力を消耗した日本の家電メーカーは、一時期の勢いを失った。再建をかけた支援先選びに奔走するシャープ、最悪期は脱したものの経営不振から抜け切れずにもがくソニー、そして粉飾決算騒動に揺れる東芝。彼らの姿に、かつての光は見られない。
日の丸家電が凋落した理由は何か。グローバル競争で勝ち残るための「戦略」が足りないからではないか。では、どんな戦略が必要なのか。その答えは、日本国内をいくら見回しても見つからない。答えは海外にある。
多くの日本人は日本の家電ブランドが世界中に浸透していると思い込んでいるが、実際はそうでもない。筆者が住む、家電の一大消費地である米国では、日本企業よりも「戦略」に長けた米国メーカーや新興国メーカーが、自社製品を1人でも多くの消費者に認知させようと工夫を凝らし、しのぎを削っている。一方で、日本人自身が思いもよらぬ部分で、日本の家電ブランドが強く認知されているケースもあるように思える。
筆者は今回、米国の家電市場の業界人の声を草の根的に調査し、日本の家電メーカーや彼らが手がける製品に対する米国人の意見を拾い集めた。今、日本の家電メーカーには何が足りないのか。そして、本当の強みとは何であろうか。聞き込みの結果、様々な教訓が浮かび上がってきた。その一部始終をレポートしたい。
「それほどスゴイのかな……・?」
ソニーの4Kカメラに向けられた疑問
今年1月上旬、米ラスベガスで開催された家電とエレクトロニクスの祭典、CESのプレスデー初日。ソニーのブースで行なわれた記者発表で、ハリウッドの映像プロデューサー、グレン・ゲイナー氏が壇上に現れた。
「ソニーの新しい4K高画質カメラ、『アルファ7Rマーク2』を使うと、暗い中、ほんのわずかな光だけで、被写体の人物の顔が非常にくっきり撮影できるのだ」と、氏は自分が撮った娘たちのスナップショットを見せながら説明する。
ソニー傘下のプロダクション、スクリーン・ジェムズのプレジデントである彼は、ソニーのカメラ技術がハリウッドの映画づくりの現場でいかに高く評価され、現場の技術革新を牽引し、映画人である彼の仕事をいかにラクにしてくれたかを語り、褒めちぎった。
それを受けたソニー・エレクトロニクス経営陣が、自社の高画質カメラの技術を絶賛する。「映画のプロにとっても、プライベートでの使用でも、最高のカメラだ」と強調した。
すると、それを見ていた参加者の1人がこうつぶやいた。
「本当にそうかな? 僕にはそうは思えないけど……」