>>(上)より続く
そんなふうに「震災離婚」の体験談を語ってくれたのは松本大輔さん(仮名。38歳、神奈川県在住)。大輔さんは都内の大学の教壇で熱弁を振るっていました。少なくとも私たち一般人より原子力の分野の知識に長けているのですが、それなのに大輔さんは原発事故のせいで家族の離散、離婚の強要、そしてわが子との生き別れという悲劇に遭ってしまったのです。
大輔さんには当時、34歳の妻と4歳の娘さんがいました。
「妻がおかしなことを仕出かすことは間々あったのですが、たいして気に留めませんでした」
例えば、近所のスーパーで品物を万引きし、盗品を使って晩御飯を作った挙げ句、食事中に「盗んだ品」だということを暴露し、まるで武勇伝かのように自慢げに語る。
また市販のクッキーについて材料費の高騰を理由に菓子メーカーが実質値上げ(値段は据え置きだけれど内容量を減らす)に踏み切った際、そのことに激怒し、菓子メーカーのカスタマーセンターに電話をかけ、数時間もの間、クレームを言い続ける。
そしてネット上のフリーマーケットで品物を購入し、手元に届いた後、「クーリングオフするから!」とキレて返金させたのに、その品物を出品者へ返そうとしない。
このように妻は今まで度の過ぎた言動を繰り返してきたのですが、いかんせん大輔さんの仕事は多忙を極め、自宅と大学との往復だけで1日が終わってしまい、クタクタになって帰ってきて、わざわざ妻を注意する気力は残っていなかったそうです。最初のうちに妻にきちんと注意していたら、どうなっていたのか……それは神のみぞ知るところですが、大輔さんは「まぁ、いいか」と先送りにし、見て見ぬふりを続けてきました。
癇癪の対象はスーパーの品物やお菓子メーカーの電話口、そしてフリマの出品者に限られており、幸か不幸か、妻の怒りの矛先が大輔さんに向かうことはありませんでした。とりあえず夫婦の間に決定的な溝ができることはなく、大輔さんの「事なかれ主義」が功を奏して結婚6年目を迎えることができたのです。東日本大震災が起こったのは、そのタイミングでした。
「妻はいくら何でも度が過ぎますよ!娘はまだ4歳なので、放射能に対して過敏に反応するのはある程度、仕方がないにしても、です」
放射能に過剰反応する妻
通販で20万円以上の野菜を購入
大輔さんいわく、震災の日を境にして、妻が「本当の姿」を見せ始めたそうです。震災以降、妻は1日のうち、ほとんどの時間を放射能などの情報を検索してネットサーフィンに費やし、途中で気分が悪くなり、寝込んでしまうという日々でした。とはいえ妻は専業主婦なので本来、平日の昼間は家事や育児をしなければなりません。