「海運」とは、海上輸送のことです。科学技術がどれだけ発達しても、石油・天然ガスや穀物(食料品)を大量輸送するには、船を使うしかありません。海運がわかれば、世界の動きがわかるのです。「海と経済」の第一人者であり、新刊『完全図解 海から見た世界経済』の著者である山田氏に聞いてみました。
海運(海上輸送)を
知っていますか?
経済の国際化が進展する中、海運(海上輸送)は、ますますその存在意義を増しています。現在の世界の動向をつかみつつ、海運の果たす役割についてお伝えします。
アメリカや日本のような大国の経済が回復基調にあり、原油価格が低い水準にあることなどから外航海運は好調な状況にあります。
また、FTAの普及やTPPの導入に向けた動きなど、貿易はさらに拡大する兆候があり、外航海運はますます進展することが予想されています。
しかし近年、中国やブラジルをはじめとする新興国の景気減速の動きや、就航している商船の過剰供給による運賃市況の低迷など海運業界には不安定な要因もあります。さらに、イスラム武装勢力ISの動き、イスラム教シーア派のイランとスンニ派のサウジアラビアの対立など、中東地域の産油国同士が本格的な紛争に発展する可能性も高く、世界の物資の循環を停滞させる恐れがあります。
海では「何」が運ばれているのか?
2014年の世界の海上荷動き量は、約105億2900万トンであり、対前年比で3・5%ほど増加しています。航空輸送は、時間短縮できるメリットはありますが、コストがかかります。しかも、エネルギー資源や鉱物資源、そして穀物(食料品)といった大量輸送を必要とする物資の輸送には対応できません。
海上輸送量は、1990年には約43億トンでしたが、この24年間で2倍以上に増えています。その内訳を見ますと、石油が全体の26.5%に当たる27億8500万トン、鉄鉱石が13億3200万トン、石炭が12億100万トンです。
このように世界経済の基盤を支える資源エネルギーの輸送が、海上輸送全体の50%以上を占めています。機械製品など一般的な積荷の輸送には、海上輸送用コンテナが使われ、近年、このコンテナ船が増加し、また大型化しています。日本郵船調査グループによると、2015年末に全世界で就航しているコンテナ船の数は5240隻で、前年に比べ137隻増えています。
世界のトレンドと課題
2014年の定期コンテナ船の動きを見ると、「北米向け・北米発」および「欧州向け・欧州発」の荷動きが増加傾向にあります。
北米航路では、アメリカ国内の個人消費や住宅投資の増加などにより、アジアから北米に向けた(東航)荷動きが1384万7000TEUと前年比6%近く増加し、過去最高になっています。また、欧州航路では、中国発の荷が増加し、欧州向け(西航)が1277万2000TEUと前年比8・8%ほど増加し、こちらも過去最高です。
現在問題なのは、アジアから北米、アジアから欧州が、北米からアジア、欧州からアジアの2倍の積荷があり、空(から)のコンテナが北米、欧州に集まること。そのため、空のコンテナのみを輸送しなければならず、現にアジアではコンテナ不足の状態が発生しています。
これらの問題を克服するとともに過当競争を避け、効率的な運営と良好な輸送サービスを提供するため、複数の企業がコンソーシアム(企業連合)を組み、主要な海上コンテナ航路では、共同で定期航路を運航しています。
コンソーシアムは、当初、北米航路における積荷スペースの譲渡などに限定されていましたが、対象地域や業務提携の範囲が拡大し、世界規模で複合的な輸送サービスを行う提携(アライアンス)に発展しています。
海上輸送の世界では、企業の枠に縛られず、地域、国家を超えた協力が進んでいます。ここまでしなければ、情報化、グローバル化が進んだ海運の世界では生き延びてゆくことができないのです。