大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月19日に発売された。在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど、多岐に渡る分析のなかから本連載では、そのエッセンスを紹介する。

グローバル経済の状況は、決して一部で喧伝された「フラット化」したものではない。むしろ、エリア間での「差」の方が目立つのが現状だ。第7回では、世界経済は再び「ブロック化」するのか――その可能性を分析する。

アジア経済圏を巡る
アメリカの「影」

地域内貿易の拡大は地域統合の機運を高め、地域機構を中心とした世界秩序を生み出すおそれがある。たとえばヨーロッパの貿易の3分の2近くはEU域内で、アメリカの貿易の40%以上は北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国間で行われている。

東アジアでも域内貿易が全体の53%、ラテンアメリカ(メキシコを除く)でも域内貿易が約35%を占める。ラテンアメリカの場合、その割合は急速に拡大しており、南米諸国連合(UNISUR)の成長に拍車をかけている

アジアでは、とりわけ多様な地域機関が生まれている。今後も経済統合が進むにつれて、環境問題(海面上昇など)や貿易・金融規制など、目的を絞った機能的な地域機関が増えるだろう。ただ、アジアに地域的な集団安全保障秩序が生まれるかどうかはわからない。中国中心のシステムに傾いている国もあれば、中国の影響力拡大に強く反発する国も多いからだ。

こうした多様性は、裏を返せば、「アジアとは何か」という最も基本的な問いにも、アジア諸国が足並みのそろった答えを持たないことを意味する。アジアの統合が進むかどうかは、引き続きアメリカが大きなカギを握るだろう。いまは、中国の台頭が近隣諸国の安全保障上の脅威と受け止められており、経済統合が加速しても、集団安全保障秩序の構築は難しくなっている。

だが、中国自身が周辺国に脅威と受け止められないよう努力すれば、状況は変わるかもしれない。また、アジア諸国がアメリカは頼りにならないと思うようになったら、中国という「勝ち組」に加わって、アジアだけの安全保障秩序を構築する機運が高まるかもしれない。