立ち食いひと筋43年

 店主の小森谷が六文そばに入ったのはいまから43年前のことだ。そして、35年つとめて独立した。立ち食いそばひと筋の人生である。立ち食いそばのつゆのにおいのなかで、半生を過ごしてきた。

「立ち食いそば屋に勤める前は喫茶店のウェイターをやったり、スナックに勤めたり…。やさぐれた人生でした。ただ、ふと思ったんですよ。年を取って、白髪頭で喫茶店やスナックで働くのはカッコ悪いな、と。年取っても働ける飲食業はないかな? ある日、新聞の求人広告を見ていたら、『六文そば 従業員募集』と出ていた。あっ、これだと思ったんです」

 長く働ける仕事を探していた小森谷にとって、立ち食いそばという業種は「フィーリングが合う」ものだった。

「白髪頭やハゲていても、立ち食いならカッコ悪くない」からだ。

 世の中にはハゲた喫茶店主もいるし、白髪頭のスナックマスターもいるけれど、小森谷は、「喫茶店やスナックで働くならば若くなければダメ」という独特の美意識を持っていたのである。

 さて、立ち食い業界に入った小森谷は身を粉にして働いた。

 まず、彼の目標は行列を作らないこと。1秒でも早くオーダーをこなすことだった。

「早く作るには段取りの良さが必要です。麺、つゆを用意して、天ぷらも切らさないよう万全の準備がいります。そして、常連のお客さんが何を注文するのかを予測すること。常連の顔を見たら、もう、麺を湯のなかに投入していなければなりません。あうんの呼吸です。あと、うちは券売機を置いていないんですよ。券売機がないから暗算が早くないといけない。それも重要な点です」

 もうひとつ、彼が自分に課していることがある。絶対に客の期待に応えることだ。

「何かで読んだんですけれど、お客の期待に100パーセント応えれば満足してもらえる。150パーセント応えたら感動してもらえる。200パーセント応えたら信者になってもらえる。オレの店、ほぼ毎日来る常連さんが150人いるんです。200パーセントのエネルギーを投入して仕事をしているから、いつの間にか150人のお客さまが常連になってくださった。そりゃ、ありがたいですよ」

 一由そばはねぎは入れ放題。とうがらしは粉ではなく輪切りのそれ。130円の「ちょいたぬそば」にねぎととうがらしを多めに入れてすすればそれで満腹するし、満足する。

 カレー、天丼も置いてあるけれど、小森谷は「そばを食べてほしい。つゆを飲んでほしい」と言う。

「価格を抑えるには人件費を減らさなきゃいけない。そのためにはなるべく複雑な仕事をしないで済むようにしておきたい。カレーは自家製ですけれど、それほど自信があるわけじゃない。だから、そばを食べてほしいです」

 小森谷は1日に15時間は働いている。あとは15人の従業員が交替でサポートしている。

 小森谷は情熱を込めて立ち食いそばを出している。情熱を込めて、ゲソかき揚げを揚げている。一由そばではゲソを食べ、主人の情熱を分けてもらうといい。 


「一由そば(いちよしそば)」

◆住所
東京都荒川区西日暮里2-26-8
※日暮里駅から徒歩3分
◆電話
03-3806-6669
◆営業時間
24時間営業/無休