デジタル化の進展により新たなビジネスモデルが次々に創造されており、既存業界を破壊する勢力を持つものも登場している。本稿では、その中で注目度の高いシェアリング・エコノミーを取り上げ、企業に求められる対応を考察する。
ウーバライゼーションの脅威
2016年の年始早々、米サンフランシスコ市最大のタクシー会社であるYellow Cab社が会社更生法を申請するというニュースが全米を駆け巡った。UberやLyftなどのライドシェア(一般ドライバーがマイカーを使い、客を有料で送迎するサービス)に市場を奪われたことが直接的な原因とされているが、それだけでなく、これらの台頭によりタクシー運転手の確保が困難になったことも指摘されている。Uberの運転手の約半数が元タクシー運転手だったという調査もある。
また、UberやLyftで運転手として仕事がしたいが、自動車を持っていないという人に向けた自動車のレンタルサービス「Breeze」も登場している。タクシーの運転手が会社から車を借りる場合、1日換算でかかる料金は約120ドルだが、Breezeの車のレンタルにかかる料金はおよそ50ドルとのことだ。
ウーバライゼーション(Uberization)という新しい造語は、Uberの登場によりタクシー業界が大きな打撃を受けたように、ビジネスモデルの異なるデジタル企業の参入によって既存の業界が脅かされる状況を指す。Uberのようにサービス・製品・設備など、有形無形のものを共有し、利用者が必要な時に利用してもらうビジネスモデルは、シェアリング・エコノミーと呼ばれており、特に注目されている。「購入」や「消費」を中心とした経済活動を、「共有」へとシフトさせるシェアリング・エコノミーの台頭は、IT業界における「所有(オンプレミス)」から「利用(クラウド)」へのシフトと共通する。
シェアリング・エコノミーの台頭はタクシー業界に限ったことではない。すでに有名な事例となった民間宿泊サービスAirbnb、クローゼットに眠っているドレスなどの衣服を貸し出せるStyle Lend、レジャー用ボートを共有するBoatboundなど多岐にわたる。日本国内においても、UberやAirbnbに続けとばかりに、次々とシェアリング・エコノミーのビジネスモデルを掲げたベンチャーが生まれている(図1)。
使っていない時の駐車場を貸し出すAkippaや軒先パーキング、会議室やイベント会場を共有するスペースマーケットなど、狭い国土を反映して場所を共有するものが多いのが特徴といえるかもしれない。例えば、店舗や飲食店などの駐車場は、営業日にはフル稼働しているかもしれないが、定休日は遊休施設となる。所有者の都合を反映して貸し出せることもシェアリング・エコノミーの魅力といえる。