ソーシャルメディア、ビッグデータ、クラウド、シェアリングエコノミー……次々と勃興する新たなテクノロジーとサービスがもたらす「評判」がすべての世界で、密かに進行している「恐るべき事態」とは? 世界初のレピュテーション・マネジメント会社創業者とオンラインプライバシーに精通した弁護士が語りつくした『勝手に選別される世界』から、「すぐそこにある現実」の一端をご紹介する。(構成:編集部 廣畑達也)
毎日フェイスブックやツイッターで他人とつながり、アマゾンでのお買い物でビッグデータの恩恵を受け、さらにこれからはAirbnb(エアビーアンドビー)やカーシェアといった「シェアリングサービス」を享受する――。
次々と勃興する新たなテクノロジーと革新的なサービスによって、ますます快適になっていく私たちの暮らし。しかしその裏では、日常生活のすべてが点数化され、「評判(レピュテーション)」としてデータ化される世界への移行が進行しているという。
評判の威力は絶大だ。
どんな人に声をかけてもらえるか、何を一緒にやってもらえるか、代わりに何をしてくれるかは、みな、あなたの評判にかかっている。
銀行が家や車のローンを都合してくれるかどうか、家主が部屋を貸してくれるかどうか、どんな会社に雇ってもらえるか、そもそも仕事にありつけるかどうかも、あなたの評判次第だ。
提供される優待の種類やVIP待遇の中身も評判によって異なるし、これからデートする相手が誰になるかさえ、あなたの評判によって大きく変わる。
健康保険や、自動車保険、住宅保険、生命保険が掛けられるかどうかも、保険会社が握っているあなたの評判次第。
政府が握っているあなたの評判によっては、容疑者にされてしまうかもしれない。
こうした評判の威力は、今まさに強大になりつつある。急激に進化するデジタルテクノロジーのおかげで、好むと好まざるとにかかわらず、あなたの評判はどこでも、いつでも、全世界で入手できるようになるからだ。たとえどこに出かけようとも、あなたの評判に関する情報には、誰でも即座にアクセスできるようになる――あなたが気づかないうちに、そして、アクセスされることに同意などしていなくても。(『勝手に選別される世界』12ページ)
まさに、いわゆるビッグデータ――厖大な量のデータを集めて保管するトレンド――と、ソーシャルメディアが浸透した先に広がる世界の一端を示している。
とはいえ、レピュテーションにはよい面があるのも事実ではなかろうか。無名のボーカルが世界的ロックバンド「ジャーニー」に抜擢されたのは、YouTubeにアップした動画がきっかけだった。そんなサクセス・ストーリーは、探せばすぐに見つかるだろう。実際、ソーシャルメディアが流行りだした頃は「誰にでもチャンスがある」と盛んに言われていたはずだ。
しかし、オンライン上の評判の世界的権威ファーティックとトンプソンは、そうした「プラス」の裏側にある「マイナス」を見逃さない。
このことがあなたにどんな影響をおよぼすかということについては、(あなたのような)消費者に関する情報について毎分何百万件もの処理スピードで判断を下すシステムの開発に、企業がすでに着手していることを考えてみるといい。このような判断が下される対象は、“まあ当然だと思われること”から“ドキッとさせられるもの”まで、急速に広がっている。
前者には、クレジットカード詐欺を減らすために不自然な取引を鑑別する、というようなことが含まれ、後者には、保険会社が顧客のオンライン活動に基づいて契約を拒否したり、企業がコンピューターの分析結果に基づいて社員の採用や昇進を決めたり、酒場で相手の人物背景調査が瞬時に行えるようなモバイルアプリまでが含まれている。(同16ページ)
ここから読み取れるのは、「無自覚なままでは知らぬ間に“レピュテーション格差”の底辺に落ち込んでしまいかねない」という恐るべき側面だ。
・何気ない1クリックのせいで「信頼性スコア」が下落し、保険料が跳ね上がる
・日々の「つぶやき」の内容で判断され、適切なサービスが受けられない
・つながっている「友だち」まで測られて、融資条件が悪化する
ほんの少し先に広がる「未来」では、このようなことが当たり前になっているかもしれないのだ。