不要な本を捨てると、もっと本が好きになる

以前は僕にも、読み終えた本やこれから読む(つもりの)「積ん読本」が増えていくことに、喜びを覚えていた時期がありました。本が積み上がっていく光景が「本好き」の心を揺さぶるのは事実なので、日に日に高くなっていくそれを見上げてはニヤニヤしていたりしたわけです。ハッと気づいたのは、本が増えすぎて「いよいよ部屋がヤバいぞ」という段階に近づいたときでした。

「ここにある本、今度いつ開くんだろう?」

お気に入りの本を何度も読み返すという人はいると思いますが、基本的に一度読んだ本を再び開くことってほとんどありません。僕の場合、「積ん読本」の中には1年以上前に買ってそのままになっているものもありました。

そのことに気づいたとき、僕はものすごくうんざりした気分になってしまいました。これまで財宝に囲まれて暮らしていると思っていたのに、実はそのほとんどが偽物だとわかったかのような、なんともやるせない感情です。そこで僕は、持っていた本のおよそ半分くらいをまとめて処分することに決めたのです。

思えば、以前にもこれとそっくり同じ体験をしたことがありました(昔は「捨てられない性格」の人間だったのです……)。

音楽ライターをメインに活動していたころ、僕の書斎はものすごい数のレコードで埋め尽くされていました。かつては「このレコードはすべて僕のものだ」という幸せな所有の感覚を味わっていたのですが、いつしか圧迫感と埃っぽさがそれを上回るようになってきました。

そしてついに、部屋にあったレコードを大量処分することにしたのです。その数、およそ8000枚。かなりのレア盤もありましたが、一方、その経験から得たものもたしかにありました。

それは「本当に必要なレコード」と「必要のないレコード」をギリギリのところまで絞り込んでいった結果、「自分が本当に好きな音楽」が見えてきたということです。これは、ムダを極限まで削ったからこそ行き着いた境地なのだろうと思います。

そんな経験があったからこそ、僕はまず、部屋にある本を「半分に減らす」ことを決心しました。その結果、僕の気持ちには2つの変化が訪れました。

まず1つは、部屋が片づくことによって、生活や仕事に向き合う気持ちがよりポジティブになったということ。

そしてもう1つが、新たな本との出会いがますます楽しみになったことです。

それ以来、僕は定期的に本を処分するようになりました。といっても捨てるのではなく、「それ、読みたいです」という若い知人になるべくあげるようにしています。

「本を処分する」ということに、ネガティブなイメージを持っている人も多いと思いますが、人生を豊かにしてくれるはずの本が、生活環境をどんどん悪化させていくなんて本末転倒です。ストック(貯蔵)をやめてフロー(流動)に切り替えることは、「本の読み方」だけでなく、「本の管理」についてもいえることなのです。