1カ月以上にわたる契約延期を経て、ようやく台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業と正式調印に至ったシャープ。自らをたたき売りするように悲惨な支援条件を受け入れたにもかかわらず、出資が無事完了するかは、いまだ不透明な部分が残っている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)

100年企業シャープを叩き売った首脳陣の無為無策Photo:伊藤真吾/アフロ

「今後100年生存する旅路の一歩を、私と共に踏み出そう」

 4月2日土曜日。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業とシャープが、正式に出資契約を結んだこの日、鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)会長が、手元のタブレット端末に映る原稿をそう読み上げると、会見場の前列を軒並み「予約席」として占拠していた鴻海関係者から、割れんばかりの拍手の音が響いた。

「先端技術であるこの8Kディスプレーは、66歳になる私でも若者のように見せてくれる」と、時折放つ郭会長のジョークに、“喜び組”のごとく、鴻海の関係者は大声で笑ってみせる。

 その一方で、後列に陣取る報道陣たちは発言を逐一メモしながらも、静まり返っていた。

 聞きたかったのは、歯の浮くような美辞麗句ではない。なぜ、2月末の決議から出資額が1000億円も減り、さらに出資を実行しない場合は、鴻海に液晶などのディスプレー事業だけを買い取る権利を与える、という前代未聞の条項を盛り込んだのかということだ。

 しかしながら、郭会長は質疑応答の中で「万が一のため」などとけむに巻いた。それがどういうケースなのか、なぜ買い取るのがディスプレー事業だけなのかなど、誰もが感じる素朴な疑問に、まともに答えようとはしなかった。

 それもそのはずだ。たとえ、その条項によって鴻海が揺さぶりをかけ、シャープ側の不信感につながったところで、もはや出資をしてくれるのは、鴻海しかいない。

 髙橋興三社長をはじめ、首脳陣が「それならば」と、契約を拒否して法的整理に踏み込んでみせる度胸も覚悟もないことを、はなから見透かしてもいるわけだ。

 そうして、札束だけに目を奪われたシャープの一部経営陣と銀行団は、自らバナナのたたき売りのごとく、交渉の中でディスプレー事業の買い取り条項や1000億円の出資の減額、1カ月の出資期限の先延ばしなどを次々と受け入れていった。

 “手付金”として鴻海側が支払った1000億円の保証金についても、シャープは運転資金には使えないなど使途制限をかけられている。使用時には「鴻海側の承認が必要」(関係者)といい、もはや3月末に前もって受け取った意味がない状態にある。

 今後、鴻海側が何らかの理由で出資をせず、それによって銀行が融資不能に陥り、シャープが資金繰り破綻。さらには契約に基づき、ディスプレー事業を二束三文で明け渡す──。

 それは、シャープにとって最悪のシナリオだが、鴻海にとってみれば最もリスクの少ない投資シナリオだ。このような“不平等条約”をのみ込まざるを得ないほど、無策を積み重ねたシャープ経営陣は、自らを追い込んでしまった。