2015年度の税制改正で相続税が増税されたことを期に、資産を子や孫の世代に引き継ぐ方法がさまざま語られるようになった。国も親族間での資産移転や共同利用を促進する施策を次々と実施している。この連載では、変化する税制の動きをウォッチしながら、上手な資産防衛と承継について考えて行きたい。第1回は、最近とみに課税当局による保有資産への監視が強まっている「富裕層」についてのトピックスを紹介しよう。
課税当局が目を付ける
「富裕層」って誰?
アメリカの経済誌『フォーブス』が3月1日、今年の世界長者番付を発表した。日本人では、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長、ソフトバンクグループの孫正義会長らがランクインしている。
最近、マスコミなどで「富裕層」という言葉がよく使われるが、はたして、どのくらいの資産を持つ人が「富裕層」に当たるのだろうか。
野村総合研究所は2014年11月、純金融資産保有額を基に保有世帯数の推計調査を実施した際、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満を「富裕層」、同5億円以上を「超富裕層」として、これらを合わせた2013年時点の世帯数は100万7000世帯と発表した(野村総合研究所のリリース)。
しかし、一般的には「富裕層」の定義は曖昧だ。ところがここ数年、この「富裕層」に対し、課税当局(注1)は監視を強めている。ゆめゆめ、「幾ら以上の資産を持つ人に対して監視を強化する」などといったアナウンスはない。
監視が強まっていることの例としては、近年、「富裕層」への税務調査実施件数が高い水準で維持されていることが挙げられる。
「次は自分も?」と、突然やって来るかもしれない税務調査に不安を覚える人も少なくないだろう。
次ページの表は、国税庁が発表した「富裕層に対する調査状況」の抜粋である。
注1 課税当局:国税庁、国税局、税務署を合わせた呼称