そこで浮上している二つ目の案は、創業家への“大政奉還”である。セブン&アイHDのトップに伊藤名誉会長の次男の伊藤順朗取締役が就き、セブン-イレブンの社長は井阪社長が続投するというもの。グループの求心力を保つために、創業家のカードを切るというわけだ。

 伊藤取締役は現在、CSR(企業の社会的責任)を担当。「人当たりが良く、人望はある。ただ、セブンという巨大な組織を率いていく器かどうかは、疑問が残る」(幹部)。そこで、“トロイカ体制”で支えるとの見方だ。

 第三のシナリオは可能性が低いが、鈴木会長が心変わりし、トップを続投するというものだ。

 というのも、退任表明後、鈴木会長派の幹部らは連日“鈴木詣で”に走り、必死の慰留を続けているからだ。井阪社長の交代案に否定的だったある幹部も「まさか人事案の否決で鈴木会長が引退を言い出すとは思わなかった」と本音を漏らす。万が一、説得工作で鈴木会長の意志が揺らぎ、引退宣言を覆すことになれば、「止められる人はいない」(前出の幹部)。

 また、鈴木会長がこのまま引退するにせよ、「社内融和のために、名誉顧問のポストを用意する必要があるかもしれない。鈴木会長の処遇は大きな懸案事項」と別の幹部は頭を悩ませる。

 事態を収拾するため、セブン&アイHDは19日に臨時の取締役会を開催し、ポスト鈴木体制について取りまとめる予定だ。

 コンビニエンスストアという業態を日本に根付かせ、巨大ビジネスへと成長させた鈴木会長。コンビニも銀行もプライベートブランドも「周囲の反対を押し切って実現してきた」(鈴木会長)という実績は誰もが認めるところだ。

 ただ、指名委で反対された人事案を強引に取締役会にかけたのは無理があった。実現しないから引退という姿勢は、わがままな責任放棄としか映らない。カリスマ経営者の幕引きは、足跡に大きな汚点を残すものになった。