また年金基金は、選び得る運用会社の選択肢の中からベストなものを選んだことを、年金加入者に説明できなければならない建前なので、運用会社・運用商品の相互比較を広い範囲にわたって行う手続きを踏むが、個人客の場合は取引先の金融機関の取り扱い商品の一部の中から、セールスマンの勧めに従って決める場合が多い。

 金融機関の側も、顧客を自社に囲い込もうとする。特に、この際に「優越的地位」を持っているのは、顧客の取引銀行だ。銀行は、顧客の取引口座の残高を知ることに加えて、お金の流れから顧客の経済的状況を詳しく知る立場にある(たとえば退職金が振り込まれると、すぐに電話がかかって来る)。顧客のお金の流れを知ることは、与信判断のために必要なことでもあるが、これを金融商品による手数料稼ぎの営業にどの程度流用していいのかは、検討されて然るべきだ。

 金融庁長官が指摘するように、たとえば国内株式に投資するなら、手数料の高い投資信託よりもTOPIX連動型のETFの方がいいわけだが、こうした情報を知らずに、競争の圏外でお金に関する意思決定をしている投資家が少なくない。

 加えて最も重要なことは、個人がお金について判断するための正しい知識を持つことだ。NISAなどをきっかけに、巷ではそれなりに「投資教育」が行われているが、その多くは金融機関がスポンサーであったり、金融機関と利害関係の深い主体によって行われたりしており、必要な知識(たとえば、運用商品の選択に当たっては「実質的な手数料」が重要であること)が十分伝わっていない。

 義務教育も含めたレベルで、金融的な判断を正しく行うための知識を、「金融機関の利害から独立した立場から」提供する金融教育が必要だ。手数料の高い投信がダメなことも、金融機関の窓口で売っている一時払い保険が怪しいことも、中学生程度の算数と社会の知識があれば、十分に判断できるはずだ。

 もちろん、学童向けばかりでなく、大人向けの金融教育も大規模に展開する必要がある(スポンサーを気にせずに正しい情報を提供できるNHKを使うのがいいと考える)。

金融庁には顧客のためになる
金融環境の整備を期待したい

 フィデューシャリー・デューティーがリテール金融の場で機能するためには、顧客側の教育が必要であることを、森長官にはぜひご理解いただきたい。教育は文科省の管轄なので実現が難しいのかもしれないが、森氏ならできるのではないかと期待する。

 お金に関する環境を整えることは、投資家ばかりでなく、広く国民の利益につながる。せっかく「顧客側からも考える」長官が就任したのだから、我々は金融庁の動向に大いに関心を持って、顧客のためになる金融環境の整備を後押しするといい。今がチャンスである。