地方にも元気な企業がある。その一つが、愛媛県松山市を拠点に1都12県に87店舗を展開する明屋(はるや)書店である。全国300万社のデータを基に売上高と利益、雇用の三つの面から迫った「週刊ダイヤモンド」(2015年12月26日・2016年1月2日合併号)の「地方『元気』企業ランキング」で全国トップにもなった。
このたび、実体験を基に書店再生のノウハウを明かした小説『崖っぷち社員たちの逆襲 お金と客を引き寄せる革命──「セレンディップ思考」』(WAVE出版)を著した明屋書店の小島俊一社長に、中小企業再生のヒントを尋ねた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)
──このたび、地方書店の企業再生をテーマに小説を出されました。なぜ、小説形式にしたのでしょうか。
1957年福岡県生まれ。明治大学政治経済学部卒業後、1982年に東京出版販売(現トーハン)入社。2005年に経営企画室長として「王様の本」に出向するも経営再建ならず。その後、トーハン執行役員近畿支社長、九州支社長を経て、2013年、明屋書店社長に就任。経営再建を果たして現在に至る。中小企業診断士・産業カウンセラーの資格も持つ。 Photo by Toshiaki Usami
もともと私は出版取次大手トーハンの人間です。地方書店の経営者とお会いすることが多かったのですが、中には決算書の読めない経営者も少なくありませんでした。
そのため、銀行とはかなり不利な交渉をしているように感じていました。担保となる資産があれば別ですが、書店の経営環境が厳しい今の時代、書店が単に「お金を貸してくれ」と頼んでも、銀行は首を縦に振らないでしょう。
とはいえ、決算書の読み方に関する本は世の中にあふれています。そこで書店の企業再生というテーマの小説にすることで読みやすくしました。実務家に必要な内容も盛り込めたと思っています。
もっとも、これは10年前の自分に向けた本でもあるのです。
実は、2005年に石川県金沢市の地方書店へ経営企画室長としてトーハンから出向した経験があります。中小企業診断士の資格もあり、経営を理屈で分かっていたものの、実際は何もできないままに2年が過ぎ、その書店は倒産してしまいました。
当時の自分に対して「もっと勉強しておけ、ばかやろう」という気持ちが残っていたのですよ。
その後、明屋書店がトーハン傘下に入ることになり、2013年に社長に就任することとなりました。当時は多額の負債を抱えていたのですが、黒字転換を果たし、おかげさまで周囲の評価もいただけるようになりました。銀行からも、積極的な融資の申し出をいただくようになりました。
──決算書の読み方だけでなく、銀行との交渉術についても具体的に描かれていますね。
はい。トーハンの支社長時代に、経営危機を迎えていた関係書店のリスケ(借り入れ条件の変更)を求めたことがあります。銀行の担当者を集めて、バンクミーティングを開きました。