『週刊ダイヤモンド』2015年10月17日号(10月10日発売)の第1特集は「読書を極める!」です。特集記事の中から、成毛眞氏の書店での買い物に密着したレポートをお届けします。マイクロソフト日本法人の元社長で、現在は書評サイト「HONZ」の代表も務める、ビジネス界を代表する読書家は普段、どう本を選び、買っているのでしょうか。

ボクはアマゾンでも本を買うが、書店で買うことの方が多い。理由は単純で、書店員というプロが選んだ思いがけない本との出会いを期待できるし、納得がいくまで内容を確かめてから購入を決められるからだ。

Photo by Kazutoshi Sumitomo
今回訪ねたのは、丸善丸の内本店。1階の店頭には新刊書や話題の書が平積みになっているが、いきなりそこで足を止めるのは、急いでいるときだけだ。今日のように時間に余裕があるときは、まずはエスカレーターで3階まで行き、そこから興味と重力に従って、フロアを下りながら新刊という名の獲物を物色する。
靴は履き心地のいいスリップオン、バッグはリュックと、帰りには荷物が重くなることを想定してのいでたちである。
さあ、まずは3階、芸術書のコーナーだ。芸術書こそ、中身が肝心。デザインや装丁だけでなく、紙や印刷もチェックする。出来上がりに手を抜いた芸術書に良書はないし、ここを頑張った本に悪書はない。早速、写真集『Tamagawa 東京ネイチャー』(つり人社)、企業が作る印刷物を集めた『構成・レイアウトで魅せる 企業案内グラフィックス』(パイインターナショナル)などが面白そうだ。

Illustration by Chica Akai
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平積みにされている本を見ると、今、世の中で何がはやっているかがよく分かる。春画関連の本が多いのは言わずもがな。そうそう、塗り絵がブームなんですよねと眺めていると「あらー」と思わず声が出てしまった。ひときわ美しい一冊を見つけたからだ。『ファンタスティック・シティ』(クロニクルブックス・ジャパン)がそれ。大判のページに、街を描いた線画が並ぶ。ボクは、大人こそイマジネーションを刺激される絵本を読むべきと思っているのだが、この本は、実にそれにふさわしい塗り絵本である。アマゾンでは魅力が分からなかったであろうこの本、購入決定。
続いて、演芸のコーナーへ。歌舞伎の棚に自著があるのを確認した直後、『人生に役立つ都々逸読本』が目に飛び込んできた。ボクはちょいと粋で乙な都々逸や川柳が大好きだ。それを人生に役立てようという著者・柳家紫文師匠の心意気に感銘し、ページを開くと「こうしてこうすりゃこうなるものと知りつつこうしてこうなった」と見つけ、うれしくなって購入決定。今、若い人の間でも歌舞伎や落語といった古典芸能への興味が高まっているようなので、次は都々逸やもしれぬ。