何か地元のために役立ちたい
強い想いの老若男女が集う”町内会”

やない・みちひこ
クリエイティブディレクター。東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」など数々の広告手がけ話題に。イベントプロデューサー、ミュージシャン…その多岐に渡る活動は常に注目を集める。

 毎日夜7時になると、「渋谷のラジオ」では“世界一長い(と思われる)時報”として、20年以上前に一世を風靡した“渋谷系”の象徴ピチカート・ファイヴの『東京は夜の七時』(93年)が流れる。

 そのボーカル野宮真貴さんは、「渋谷のラジオ」の美化委員を担当し、同じく“渋谷系”アーティストのカジヒデキさんとともに『渋谷のラジオの渋谷系』という番組のパーソナリティを務めている。野宮さんはここ3年ほど「渋谷系を歌う」というコンセプトで、渋谷系の名曲やルーツミュージックをカバー。“渋谷系の女王”は渋谷の顔として活躍中だ。

「渋谷系と名乗っている以上は渋谷を世界に発信していけたらと思い、友人のクレモンティーヌ(フランスの“渋谷系”シンガー・ソングライター)からパリ情報をボイスメールでもらい紹介するというやりとりも始まっています。渋谷系を知らない若い人たちにも、渋谷系の音楽をどんどん紹介していきたい。このラジオは本当に人と人をつなげる場所で、私も商店会の方と知り合って、商品企画のアイディアを話し合ったりしています」

「このラジオはもちろんアプリでも聴けますが、“わざわざ”渋谷に来て聴いてほしいです。例えば『渋谷のラジオ』オリジナルのポータブルラジオとかを作っても面白いし、それを持って渋谷に来るというのがカッコイイという感じになるのも面白い」と野宮さん。

のみや・まき
元「ピチカート・ファイヴ」ヴォーカリストとして「渋谷系」ムーブメントの音楽・ファッションアイコンとなる。現在、音楽活動に加え、植物療法士としてヘルス&ビューティーのプロデュース、エッセイストなど多方面で活躍中。昨年リリースしたニュー・アルバム「世界は愛を求めてる。~野宮真貴、渋谷系を歌う。」がオリコンアルバムジャズ部門1位になるなど、勢力的に活動。

 箭内さんも「『渋谷のラジオ』はアプリがあるが、でも渋谷をえこひいきする部分はずっと残したい。渋谷に来たらもっといいことがある、渋谷に住んでいる人にもいいことがあるという部分は強調したい」とあくまで“渋谷ローカル”にこだわっている。

「渋谷のラジオ」は地元の不動産屋や、約5000店が加盟する渋谷区内58の商店会が全面的にバックアップし、コアスタッフとして参画したり、現場のスタッフとしてボランティアで参加している。野宮さん、箭内さん、そして谷村新司さんなどの著名人と、地元住民が一緒になって盛り上げている、ダイバーシティー渋谷らしいカタチだ。

 また、高校生、大学生、社会人を始め、多くの住民のボランティアで成り立っているのも特徴だ。作家がいないから台本もない。パーソナリティも一般の人々が務め、キューを振るディレクターも高校生が担当したりもする。そして有名アーティストがゲストで来たりするが、もちろん手弁当だ。

「箭内さんがそういう、何かを一緒にやりたくなる“場所”を作ったんです。そして市民ファウンダーを始め、みなさんがこの“場所”に誇りを持っているんです。フラッと来れて、何かをやりたくなる町内会なんです」。そう野宮さんが言うように、箭内さんが作り出した“場所”に、何か地元のために役に立ちたいという強い想いを抱えていた老若男女が集まってきている。

「ボランティアというと復興支援とか困っている人を助けに行くというイメージが強いかもしれないが、もっと気楽に、自分の持っている力を面白いことに使いたい、楽しい事に自分を使ってもらいたいという人も増えてきている」(箭内さん)と、ボランティアで人生を楽しむという考え方の人が多くなっているようで、「渋谷のラジオ」はそんな時代の“気分”も映し出している。