そして、東京がその年の最高気温を更新した夜、それは突然やってきた。いつもより激しい咳が止まらない。Sさんは咳が止まるのをじっと待っていたが、どんどん苦しくなってきた。寝ると苦しいので上半身を起こしていた。次から次に出てくる痰が切れず、呼吸ができない。

 痛みのある喉から声をふりしぼって、家族を呼んだ。苦しんでいるSさんをみて妻はうろたえた。そして、店から呼ばれた息子は冷静に救急車を手配した。

喉の炎症?それとも肺炎?
酸素注入と点滴で回復したが…

 呼吸困難に陥っていたSさんも、酸素を鼻から入れると幾分楽になったが、激しい咳は一向に改善しなかった。全身がきしむほどの咳を繰り返すSさんをみて、家族は慌てた。救急病院の若い当直医は腫れている喉を見て咽頭炎と判断。専門医の判断を仰ぐために、翌朝までSさんは処置室の堅いベッドに放置された。

 その晩、Sさんは激しい痰と咳で体力を消耗していった。咳の激しさでのどが切れて出血した。痰に血液が混じる。明け方には喉が痛くて、水を飲むことも話すこともできなくなっていた。酸素飽和度92%。酸素吸入がなければ、かなり息苦しい段階にきていた。一晩で容体が急変したことで、「自分はどうなってしまうのだろう」と、Sさんは生まれてはじめて感じる恐怖におびえていた。苦しくて何度もナースコールをした。

 翌朝、耳鼻咽喉科の専門医が鼻から内視鏡を入れた。そして、医師は叫んだ。

「喉は炎症していない。白血球も炎症反応の数値もここまで上がっている。レントゲンをよく見ろ。完全に両側の肺に肺炎を起こしている。早く呼吸器科に」

 当直の若い医師は、こう先輩の医師に注意された。咳と呼吸困難で「このまま気を失ってしまうのではないか?」と思ったSさんではあったが、何本目からの点滴で少し落ち着いてきた。水が飲めるようになり、食事ができるようになると体力も回復してきた。

退院後また呼吸困難に
なんと「鳩」が肺炎の原因だった!

 しかし、退院したその夜、再び呼吸困難に陥った。そして、あわてて総合病院に再入院した。

 呼吸器専門の副院長がSさんの回診にやってきた。

「Sさん鳥を飼っていませんか?」