ある制作会社では、お客様の求めに応じてさまざまなデザインの販促物を作っています。あるときお客様から「500万円の予算で、こんな感じのモノを作ってほしい」とざっくりした注文があり、それをもとに制作したのですが、完成品の引き渡し間近になってお客様からのダメ出しが相次ぎました。
はたして、500万円の売値は妥当だったのでしょうか?
この会社には原価を集計するシステムがありますが、作業日報の入力が不徹底なため人件費の割り振り計算がいい加減で、その仕事の正確な原価がわからなかったのです。
しかしその後、作業日報を毎日きちんと入力することで、ほぼ正確な原価がわかるようになりました。そこで先ほどのケースをあらためて調べてみると、原価は550万円でした。当初は実行予算430万円に70万円の利益を乗せて500万円で請け負ったのですが、何度もやり直したために人件費がかさみ、50万円もの赤字になってしまったのです。
これは大変、こんなことを許していたら会社はつぶれます。原価集計の大切さ、請負金額(売上高)を決めるときの予算案作り(採算計算)の重要性があらためてわかった事例でした。
公認会計士・税理士。株式上場準備コンサルタント。
1954年静岡生まれ。1976年早稲田大学商学部卒業後、朝日監査法人(現・あずさ監査法人)などを経て、安本公認会計士事務所を設立。1990年(株)ファーストリテイリング(旧・小郡商事)の柳井正社長と出会い、以降、株式上場準備コンサルタント・監査役として、同社の成長を会計面から支えてきた。現在、アスクル(株)、(株)リンク・セオリー・ジャパン、(株)UBICの監査役でもある。2013年3月まで6年間にわたり中央大学専門職大学院国際会計研究科特任教授を務めた。2014年5月より若手経営者向けの勉強会「未来経営塾」を開講している。
(本連載は毎週金曜日更新。次回は6月17日(金)公開予定です)