会計の勘所を押さえているかどうかでビジネスの成果は大きく変わります。では、経理や財務に携わらない私たちが会計思考を身につけるには何を学ぶべきか。ユニクロの成長を25年間支えてきた会計の超プロ・安本隆晴氏が、最新刊『新入社員から社長まで ビジネスにいちばん使える会計の本』の内容をもとにやさしく教えます。
「利益=現金」にならないワケ
ビジネスが順調で利益が出ているとしたら、もっと利益を増やそうとして設備投資をしたり、仕入れを増やそうとしたりしていろいろ考えます。
そのとき必要なのが現金です。利益が上がった分だけ現金が増えていればそれを使えますが、利益を上げることと現金(預金も含め)が貯まることはイコールなのでしょうか?
結論からいうと、まったく異なるのです。むしろ、「利益=現金」となることのほうが少ないのです。利益と現金はまったく異なるという例を、いくつか挙げてみましょう。
(1)利益<現金
商品が売れて利益が出ても、掛けで売ったのでその売掛金(掛けで売ったときの未収金)が回収されるまでは現金が入らず、利益よりも現金のほうが一時的に小さくなる。
(2)利益>現金
手形で仕入れた商品を現金で売ると、手形が落ちるまでは現金が出ていかないので、利益よりも現金のほうが一時的に大きくなる。
(3)利益の減少≠現金の減少
たとえ利益が上がらなくても、売上を上げ続けるために事前に商品を仕入れたり、製品を作ったりするためにお金を使う。家賃は前払いが一般的。人を採用したり、試験研究や商品開発のためにお金を使うのも先行投資になる。新しい事業に進出するために会社を買収するというのも同じで、お金は減っていくが当面の利益は減らない。
(4)利益の増加≠現金の増加
たとえ利益が上がらなくても、銀行から運転資金を借り入れたり、増資(出資を受け入れて資本金を増やす)をしたりして現金が増えることもある。
(5)耐用年数にわたる利益の減少≠初年度だけの現金の減少
設備投資(機械を買う、工場を建てるなど)をすると、お金を使った年に全額費用にするのではなく、その機械や工場が何年使えるかという耐用年数を想定して、その年数にかけて費用を割り振っていく。売上を上げるために何年も使える資産(固定資産)は、各年度の売上に対応して費用化しないと偏るため。これを減価償却(げんかしょうきゃく)と呼び、各年度に割り振られた費用を減価償却費という。
資産の価値は毎年減っていくが、どんなふうに減価していくのかを想定して計算する。減価償却の詳しい方法は省略して、その考え方だけをお伝えしよう。
いま耐用年数10年の機械を100万円で買ったとすると、買った年は減価償却費10万円(100万円を10年で割った金額)だけが計上される。つまり利益は10万円だけ減るが、現金は100万円全部が減る。それ以降の9年間は、減価償却費10万円が毎年計上されるが、現金は減らない。