以前、こんなことがありました。

 ぼくの事務所の近くにおいしいイタリアンの店があります。シェフがイタリアの料理店で修行してきたそうで、料理はどれもおいしいのですが、値段が高い。それに、わりと不便な場所にあります。ということで、いつ行っても2~3割の席が空いていました。

 ところが、半年ほど前から様子が一変しました。メニューの値段が1~2割下がってからというもの、なかなか予約が取れません。ほぼ毎日満席で、夜は2回転しているようです。

 この例で見るように、売値を1~2割下げても客数が3割くらい増えていれば、アルバイトを増やした費用と原材料費アップを勘定に入れても、利益は十分増えているはずです。値下げが売上アップにつながった好例です。

変動費の計算をモノサシにする

 値引きがいくらまで許されるかを判断するモノサシとしては、変動費の計算が役に立ちます。たとえば売値1000円、変動費400円、限界利益600円の商品が、ふだんは毎日50個売れているとしましょう。この売値を半額の500円にすると、2倍の100個売れると仮定します。このときの損益はどうなりますか?

商品の値引きはいくらまで許されるのか?

 なんと、半額に値引きすると限界利益が3万円から1万円になり、2万円も減ってしまいます。半額にして同じ利益の3万円を稼ごうとすると300個も売らなくてはなりません。値引きはしないほうがよいという結論になります。

 ただし、毎日50個作っているものを100個に増やすとボリュームディスカウントで変動費(材料費)が200円に下がるとすれば、(500-200)×100=3万円という限界利益が得られます。もっとも、現実にはそのようなコストダウンは難しいでしょうから、やはりこのケースでは半額に値引かないほうがよさそうですね。

 航空会社、映画館、旅館・ホテル、レストランなどの業種では、とくに空席を作ることを嫌います。空席を作るということは、お金を得る機会を失うということです。さらに悪いことに、空席になっても費用(ほとんどは固定費)はかかっています。

 そのため、多くの席が埋まっていて正規料金を得ているなら、「〇〇割引」「〇〇特典」「ポイント値引」などと称して、いろいろなパターンで料金を下げてでも空席を埋めるべきなのです。何割以上の席が埋まっていればよいかは、それぞれの会社で損益分岐点を計算して判断するとよいでしょう。