中国への巨額投資
攻守の切り替えでCF経営を重視

 ただ、CITICに対しては同社の史上最高出資額となる6000億円もの巨額を費やしており、伊藤忠の財務に与えた影響は小さくない。

 借入金の増加に伴いネット有利子負債は2兆5000億円超に膨らんだ上、減損もあったため健全性を示すネットDER(有利子負債倍率)は1.17倍に悪化した。だが、伊藤忠の鉢村剛CFOは「財務規律はしっかり管理できている」と強調する。

 その自信の背景には、現金(キャッシュ)の流れ(フロー)を重視したキャッシュフロー(CF)経営の強化と資産入れ替えの促進がある。

 本業の営業活動からどれだけのキャッシュを稼いだかを示す営業CFは、3年連続の4000億円台を達成した(図(3))。7000億円台の三菱商事など財閥系商社とは依然差があるものの、安定的に稼ぐ力は付けている。

 一方、固定資産の取得や売却などの増減を示す投資CFはCITICへの出資があり、約5500億円のキャッシュアウトとなった。この結果、フリーCF(純現金収支)はマイナスに転じたが、実はCITICへの投資分を除けば4600億円のプラスとなる。

 これはブラジル鉄鉱石関連資産の統合や北米住宅資材関連子会社の売却により、約2800億円の資金を回収したことが大きい。

 また15年度は新規投資にも慎重だった。CITICを除いた投資額は約2450億円で、前年度からほぼ半減した。つまり、CITICという超大型案件で“攻め”の一手を繰り出す一方、それ以外の投資は急がず“守り”に徹していたのである。

 鉢村CFOは「CITIC投資後も、それ以前と同様に投資を継続してしまえば単に“ぶよぶよの大きい体”になってしまう。6000億円の投資を決めた時点から、財務体質強化をしっかりと行うという認識が社内では共有されている」と話す。

 運転資金などの増減を除いた実質的なフリーCFは、16年度以降1000億円超を毎年確保し、配当などを差し引いたキャッシュを負債返済に充ててネットDERの改善につなげる計画だ。また減損で悪化したROEも、「13%以上」(鉢村CFO)という業界随一の高い目標を設定する(図(4))。

 他商社が資源安にもがく中、攻守の絶妙なバランスで、財務体質の強化を進めた伊藤忠。今後の課題は、CITIC、そしてタイ財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループとの戦略的提携を軸に、中国やアジアで新たな収益基盤を構築できるかにある。CITIC、CPとのシナジー効果を発揮できなければ、稼ぐ力の拡大は見込めない。

 今年8月には、提携以来4度目となる3社トップ会談が行われる見通しだ。新たな目玉案件をまとめ、具体的な成長戦略を市場に示せるのか。「本当の勝負」はこれからだ。