「うるさいぞ! 何時だと思っているんだ」――怒声を浴びながら、深夜の街を歩き回る。吠えるのが止んだのは、空が白み始める頃。眠たいし、足腰もくたくた。高齢のチエコさんにとっては、文字通り寿命が縮まる一夜となった。

 早速、いつも予防注射をしてもらう獣医師に相談すると「認知症だね」と精神安定剤を渡された。昼夜の逆転が起きているのかもしれないとのことで、たくさん散歩もさせた。だがダメだった。マンション中の人から責められているような気がして、チコエさんはたちまち追い詰められた。

愛犬と一緒に死ぬしかない
悩んだ揚げ句の選択だった

「保健所に引き取ってもらうしかないのか、とも思いましたが、そんな可哀そうなことできないでしょ。なら、一緒に死ぬしかないのかなと」

 悩んだ揚げ句に選択したのが、声帯除去手術だった。完全に吠えられなくなるわけではないが、しゃがれた音しか出なくなる。

 翌年、高齢での一人暮らしを心配した娘に勧められ、チエコさんはペット同居可の高齢者施設に移った。「ペット可」とはいえ、声帯を除去していなければ、入居できなかっただろう。

「声なんかいらないわよねぇ、ママと一緒にいられれば」

 チエコさんは笑っていたが、本心ではなかったようだ。

 嘘のような本当の話。私が高齢者施設を訪れ、チエコさんの話を伺った翌日、コロは亡くなった。前日撮った写真に残るコロの顔は、穏やかに微笑んでいるように見える。

「コロは幸せだったかしら」

 チエコさんの問いかけを、誰が否定できるだろう?

ペットの長生きは飼い主のリスク
増えるペットに関する介護の悩み

 ペットの介護で悩む人が増えている。

「ペットブームに加え、室内飼いの増加、ペット医療の発達やペットフードの進歩によって、ペットが昔よりもはるかに長生きするようになったからでしょう」