ミセス・ワタナベの外貨買いバイアス

 ミセス・ワタナベは、FX会社に証拠金を置いて市場に参加するトレーダー(少額とはいえ)なので、ドル売りから入っても良さそうなものだが、ほぼ常にドル買いの主体としてニュースに登場する。

 彼女たちのポジションが「買い持ち」に偏るのはなぜなのか。

 一つには、彼女たちから「外貨」が商品のように見えて、「空売り」は怖いという意識があるからではないだろうか。空売りには、損失が無限に拡大しそうな怖さが確かにある。

 もう一つ考えられるのは、過去に於いて米ドルも含めて「外貨」はほぼどれもが円よりも金利が高かったので、買い持ちのポジションを保有し続けることで、スワップ・ポイントが受け取りになっていたことから、彼女らに、外貨の買い持ちポジションを持つ癖が付いたのではないかということだ。

 この点に関しては、高金利通貨の買い持ちポジションを持ってスワップ・ポイントを受け取る取引を、「あくせく売り買いしなくていい」、「安定的な運用」として初心者に紹介し、証拠金に対してスワップ・ポイントの利回りを計算して「好利回り」と騙るような、初心者向けの入門書や誘導が、FX普及の初期に存在したことの影響が大きかったかもしれない。外貨建ての名目金利は、決してそのまま「期待リターン」を意味するものではないし、数倍のレバレッジを掛けてスワップ・ポイントを受け取る取引は、元本の数倍の借金をして外貨預金をしているのと同等の経済的性質を持っている。

 特に、入門書で、この種の取引を安定した運用であるかのように紹介することは有害だと思う。しかし、正確な知識を持ってか持たずにか不明だが、こういうことを書き散らかして恥じない著者は、悪徳FX業者から見て便利な存在なので、複数の本を書いたり、セミナーに呼ばれたりすることが多い。筆者は、この手合いの著者の一人に苦言を呈したことがあるが、彼女は、「せいぜい数倍のレバレッジしか勧めていないので、大きなリスクはありませんよ」と答えて、反省する風はなかった。

 もっとも、金利と為替と投資の期待リターンの関係を誤解して、高金利通貨の買い持ちポジションを「安定運用」と誤解している点については、毎月分配型の投資信託を通じて外国債券に投資している、ミセス・ワタナベよりも一世代上の「グランパ・ワタナベ」とでも呼ぶべき老人投資家たちを心配すべきかも知れない。彼らは、分配金の利回りだけを見て自分の運用を「好利回りの安定運用」と誤解していて、投資元本が大幅に減ってから実態に気付く可能性がある。

 投機も投資も自己責任なので、他人の心配をする必要はないのかも知れないが、ミセス・ワタナベもグランパ・ワタナベも正しい知識を持っていない場合がありそうで、消費者保護の観点からすると、少なからず問題がありそうだ。