なぜこの「1行の質問」で人生が変わるのか?
セバスチアン・スランに、「失敗しないとわかっていたらどうする?」という問いになぜ共鳴したのかを尋ねたところ、「人が失敗する主な理由は、失敗を恐れることだからです」という答えが返ってきた。
自動運転車にせよ教育システムにせよ、スランが根本的な変革を起こすときに大事にしている基本的な考え方は、「早く失敗して、失敗したらそれに感謝すること」だという。さらに、こう付け加える。「イノベーターは失敗を恐れてはいけません」
これこそ、レジーナ・デューガンが「失敗しないとわかっていたら?」をテーマとしたTEDトークで伝えたメッセージだ。
「本気でこの問いを考えたら」と彼女は聴衆に言った。「きっと居心地が悪くなるはずです」。なぜなら、失敗への恐怖が「偉業に挑戦しようという気を抑えている」ことに気づくからだ。「そうして人生は退屈なものとなり、驚くほど素晴らしいことは起きなくなる」
けれども恐怖を乗り越えられれば、「不可能なことが突然可能になる」。
失敗を積極的に受け入れるという考え方は、シリコンバレーでは強く支持されている。それどころか最近は「失敗は素晴らしい」というメッセージが主流となり、たとえばテレビ司会者のオプラ・ウィンフリーも、2013年のハーバード大学の卒業式で行ったスピーチでこのことに触れている。
もっとも、このアイデアが突然広まったことに対し、ウェブサイト「ビッグ・シンク」のライターから小さな反発も起きた。彼は「失敗フェチ」という表現を用い、いまマスコミでどんなに好意的に報道されていようとも、実際には失敗は痛みを伴うことが多く、ときには徹底的に痛めつけられてしまうことさえあると指摘している。
それでもなお、「失敗を積極的に受け入れよう」というメッセージを強く押し出す人は多い。ライターのピーター・シムズは、「私たちは子どものころから、失敗への恐怖を心に植えつけられて育ってきた」と主張する。「スポーツでも勉強でもボーイスカウトでも仕事でも、やり遂げろ、やり遂げろ、やり遂げろと親たちは叫ぶ。教師は『間違った答え』には罰を与える」。
ビジネスの世界に入ると、状況はもっと悪くなる。「現代産業の経営は、基本的にリスクを緩和し失敗を防ぐことが前提になっている」
一方、起業家精神が旺盛で創造性の高い分野では、失敗は創造性とイノベーションにつながる、不可避な、またしばしば極めて有益な段階として認知され、評価されるようになってきた。
「アイライター」(注:本書で前に言及された、手を使わずにグラフィティアートを制作できる器具)を発明したミック・エベリングは、「失敗すると、私は笑い始めます。それは『やることリスト』にチェックを入れるようなものです。『よし、この問題は片づいた。これでまた一歩進んだ』というわけです」
経験豊富なクリエイターならこのことを知っている。詩人のジョン・キーツはこう書いている。「失敗とは、ある意味、成功への道である。人は間違いを発見するたびに、正しいことを本気で追い求めるようになるからだ」
失敗を笑えるだけの余裕がない人は、失敗の本質と、自分がそれをどう見ているかを問うことから始める必要がありそうだ。
「自分にとって失敗とはどういう意味があるのだろう?」
「私はそれを結末と見ているのか、それともあるプロセスの一時的な段階ととらえているのか?」
「受け入れられる失敗と受け入れられない失敗をどう区別するのか?(すべての失敗が同じというわけではないし、すべての失敗が前進に結びつくわけでもない。なかにはすべてを終わらせてしまうような失敗もある)」
「生産的な『小さな失敗』を、破滅的な『大きな失敗』を回避する手段には使えないだろうか?」