元サッカー日本代表監督で現在は四国サッカーリーグ・FC今治のオーナーとしてクラブを運営する岡田武史さん。

岡田さんが「スタッフが自ら動き出す組織を作るための究極のリーダーシップ」と絶賛した『最高のリーダーは何もしない』が5万部を突破する売行きを見せている。

同書著者の藤沢久美さんと岡田武史さんのリーダー対談の第2回をお送りする!(撮影/宇佐見利明 構成/高橋晴美 聞き手/藤田悠)。

▼前回までの対談▼
代表監督では味わえなかった企業リーダーとしての苦悩
―岡田武史×藤沢久美 対談(1)
https://diamond.jp/articles/-/93322

企業理念が生まれた場所

岡田武史(おかだ・たけし)
FC今治オーナー
1956年生まれ。大阪府立天王寺高等学校、早稲田大学でサッカー部に所属。同大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。
引退後は、クラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のワールドカップ本選出場を実現。その後、Jリーグでのチーム監督を経て、2007年から再び日本代表監督を務め、10年のワールドカップ南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグFC今治のオーナーに就任。
日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる。

【藤沢久美(以下、藤沢)】岡田さんがオーナーを務める、株式会社今治.夢スポーツの企業理念は「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」ですが、ここには「サッカー」「フットボール」という言葉が入っていないのも興味深いですね。
私の『最高のリーダーは何もしない』は、「ビジョン」型リーダーシップを大きなテーマにしているんですが、岡田さんはどうやってこのビジョン・経営理念をつくったのですか?

【岡田武史(以下、岡田)】すべての俺の行動の原点がそこにある、と自分では思っているんだけど、どうして「物の豊かさより心の豊かさ」と思うようになったのかというと、一つのきっかけは、学生の頃に読んだローマ・クラブのレポート『成長の限界』(ダイヤモンド社)なんだよね。このレポートには、このまま人口増加や環境汚染が続けば、資源の枯渇や環境の悪化によって人類の成長は限界に達する、と書いてあって、当時大きなショックを受けたね。

【藤沢】それが環境問題と向き合うきっかけにもなったのですね。

【岡田】そう。そして、もう一つのきっかけは、早大サッカー部の顧問だった堀江忠男先生。堀江先生はベルリン・オリンピックのサッカー日本代表選手であり、同時に政治経済学部の教授で、俺のゼミの指導教官でもあった。

藤沢久美(ふじさわ・くみ)
シンクタンク・ソフィアバンク代表
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。そのほか、静岡銀行、豊田通商などの企業の社外取締役、文部科学省参与、各種省庁審議会の委員などを務める。
15年以上にわたり1000人を超えるトップリーダーに取材。大手からベンチャーまで、成長企業のリーダーたちに学ぶ「リーダー観察」をライフワークとしている。
著書に『なぜ、御用聞きビジネスが伸びているのか』『最高のリーダーは何もしない』(以上、ダイヤモンド社)など多数。

本当に厳しい先生だったんだけど、あるとき「サッカーは自分にとってはなくてはならない、大切なものだ。でも、一番大事なものではない」と仰っていた。俺はてっきり「そうか、学問のほうが大事なんだな」と思っていたんだけど、そうじゃなかったんだよね。

先生は最初の奥様をご病気で亡くされ、再婚された奥様との間に小さなお子さんがいらした。ある時、先生のご自宅にお邪魔すると、そのお子さんがずっと先生にじゃれついている。「そのうち叱られるぞ」と思ってみていたら、まったく叱らない。俺がふと、「先生、一番大切にしているものは愛ですか?」と聞いたら、「そうだ、私は学問もサッカーも、人類愛のためにやっている」と仰ったんだよね。あのときは本当に感動した。そこから「岡田の愛の五段階説」というのが生まれた(笑)。

【藤沢】愛の五段階説!教えてください。

【岡田】第一段階は「自己愛」。次は自分以外の他者、彼女や奥さんを愛する「パートナー愛」、次が「家族愛・友人愛」。その次が先生が仰った「人類愛」、そして最後が「地球愛」だよ。
俺は、いまの自分がどのレベルでものを考えたり、決断したりしているかをいつも意識している。自分のことしか考えていないのではないか、もう一人のことくらいは考えているか…。第三段階の家族・友人愛に足が掛かったくらい。いつか先生のように「人類愛のために仕事をしている」と言えるようになりたい。それが俺の究極の夢なんだよね。