「経営者・岡田武史」はいかにして生まれたか?<br />―岡田武史×藤沢久美 対談(2)

【岡田】そもそも俺は、自分が会社を経営できるなんて思っていなかったんだ。でも、自分がいないと資金も集まらないことが分かって、経営者になっちゃった。それでいま、死にもの狂いになってやっている。

【藤沢】だから人がついてくるし、ついてくる人の数が増える。

【岡田】そうなのかな。でもずっと成功し続けるってことはないと思ってる。それは分かっているつもり。
俺は、田坂広志さん(シンクタンク・ソフィアバンク代表・多摩大学大学院教授)の言う「目に見えない資本」が、経済を回す時代がくると思っている。つまり、「共感」のような思いですね。誰もが金融資本主義が行き詰っていることには気づきながら、見て見ぬふりをしているでしょう。俺がしていることは、そういうシステムへのささやかな抵抗でもあるんだ。

【藤沢】時代は変わってきている、と。

【岡田】うん、すでに変化は起きている。そうでなければ、うちに2億円もスポンサーがつくわけがないんだよ。株のような資本も大事だけれど、日々の運営のための資金も必要だから、スポンサーも大事なんだ。僕らには「売る物」はない。僕らが差し出せるのは感動とか夢であり、そういう目に見えないものを売って回っていくビジネスモデルを作らなければいけないよね。

【藤沢】感動とか、夢…。

【岡田】そう。たとえばね、選手育成のための国際大会を開催する。中国の子ども、韓国の子ども、日本の子どもでミックスしたチームを編成してフットサルをやらせたら、最初はぎこちなかったのに次第に形になってきて、夜は宿舎でゲーム大会すると抱き合ってはしゃいでいる。翌朝は誰が指示したわけでもないのに、みんなで散歩してる。いいでしょう?
純粋に仲良くなれるのは小学生だけかと思っていたけれど、中学生でもそうなる。そんな素晴らしい光景がある。試合中に倒れたら必ず起こす。スポンサーさんも感動してくれて、また協力するよ、と言ってくれる。

【藤沢】気持ちが動きますね。

【岡田】そう。露出を増やして、効果的なメディア戦略をして…とか、従来のマスを狙った戦略では、もう限界があるように思う。

【藤沢】お金を出す側も、「お金を出したから儲けさせてくれ」だけではなくなっているように思います。目に見えないリターンが求められているわけですね。

【岡田】こんないいことをしている会社のスポンサードをしている、という誇りや、社会アジェンダを解決できる、ということを提示すればいいんですよ。そしたら、自分たちの働きがこんないいことに繋がっているんだと実感できる。

【藤沢】若い人の考え方も変わってきましたね。最近、東京の若者には「地方で活躍するのがかっこいい」という価値観を持つ人もいます。

【岡田】完全に変わったよ。感覚が違ってきた。お金ではなくなってきたんだよね。びっくりするくらい。うちの会社にも、しょっちゅう、若い子が「働かせてくれ」と言ってくるんだけど、「やめとけ、給料安いぞ、いつ潰れるか分からんぞ」って言って追い返しているんだ。もちろんうれしいし、本当は採用したいんだけど、まだまだ小さな会社ですからね。

第3回へ ※7/8公開予定)

「経営者・岡田武史」はいかにして生まれたか?<br />―岡田武史×藤沢久美 対談(2)