入院だけでは自殺は防げない
アウトリーチ(自宅訪問)は有効な対策

 西田氏によると、英国が自殺者15%減少という効果を上げることのできた背景には、こうした問題に対し、医療経済学の専門家が改革に関与し、高質かつ効率的なサービスモデルを提言してきたことが挙げられるという。当事者や家族、医療者とともにそうした専門家が政策立案過程に参加して、国家的大損害を生じている問題に対して包括的な施策を検討し、改革を断行することによって、社会全体が恩恵を受けることにつながると、国民に理解を求める努力を続けてきた。

「当事者や家族のニーズが大事なのは、国民全体のニーズとつながるからです。その象徴的な問題となっている自殺、引きこもり、虐待、薬物依存といった当事者や家族たちの声を聞いて、改革を進めていく必要があります」(西田氏)

 そもそも日本では、「認知行動療法が不十分」と言われている。とくに、重度のうつに対する対策は、危機的状況にあるといってもいい。

「専門的な医療チームが、アウトリーチ(自宅訪問)するなどして、支援を拡充しないのは片手落ちといえます。これからは、患者に来てもらう医療ではなく、家庭に出向くサービスに切り換えていくなどして、総合的に進めていかないとうまくいきません」(西田氏)

 最新の医学論文によると、フィンランドの自殺対策を10年間、各自治体に委ねたところ、自治体によって大きく差が出たという。病院が多く、入院率が高い自治体は、自殺率が高かったのに対し、24時間出向くサービスを普及させた自治体は、自殺率が低かった。アウトリーチは、自殺者を減らす上で、極めて有効であることがわかってきたのである。

 患者の多くはニーズを満たされなければ、医療サービスに失望し、医療機関を離れていく。「孤立した際に自殺することがある」というのである。

 また「会社を退職後の数週間以内に自殺が発生している」という報告もある。地域は、こうした予備軍の人たちを孤立させない努力が必要だ。