シュレーダー政権以降、ドイツは、中国の経済成長に伴う消費拡大などを狙って対中関係を強化した。メルケル首相も自らトップセールスを展開し、積極的に企業の対中投資を促してきた。

 排気ガスデータの改ざん問題によって一時は売り上げが落ち込んだ独自動車大手フォルクスワーゲンは、中国での販売に支えられている。もはや、ドイツ自動車業界は中国抜きに拡大はありえない状況にある。

 しかし、6月の訪中の折、メルケル首相は中国に懸念を伝えた。首相は鉄鋼製品のダンピング、人権問題や海洋進出に対する批判が、中国への不安を高めていると李克強首相に伝えたようだ。"蜜月関係"と言われた独中関係は転機を迎えていると考えるべきだ。

 中国政府は、鉄鋼や石炭業界でのリストラを進めてはいるものの、失業者の増加などのマイナス面が大きく改革は進んでいない。

 欧州では英国のEU離脱決定によって景気先行きへの懸念が高まっている。EU市場は中国にとって最大の輸出先だ。それだけに、中国と蜜月関係を築いてきたドイツにとって、中国経済は「頼みの綱」というよりも、「安心できないパートナー」になりつつあるようだ。

中国は強硬に正当性を主張する可能性も
国際社会は毅然たる態度で対応すべき

 仲裁裁判所の判断は、少し長い目で見ると中国の外交政策の転換点になる可能性がある。ただ、中国が易々と海洋進出の方針を撤回し、国際社会に恭順を示すとも思えない。

 共産党の一党独裁で国家を運営してきた中国にとって、自らが世界の中心であるとの主義主張を貫くことが、民衆の支持を得るために重要だからだ。経済成長への不満が高まりやすいだけに、国際社会との調和を図るタイミングはとりづらい。

 当面の情勢は不安定、かつ、不透明な状況が続くと見られる。中国はフィリピン政府に対話を呼びかけている。フィリピンにとっては、「ようやく主張が国際社会に認められたのに、何をいまさら」というのが本音だろう。

 ただ、新大統領のドゥテルテ氏の政治手腕は未知数であり、中国に抱き込まれてしまわないかとの不安は残る。

 場合によっては、中国政府が更に強硬に九段線の正当性を主張し、フィリピンに中国の行動を認めさせようとするかもしれない。中華思想を重視する共産党は、力の論理によって“中国は強い”との印象を民衆に与え、不満を回避したいと考えているかもしれない。

 それに対して主要先進国は米国を中心に、毅然とした態度で中国に対応すべきだ。長期的にみて、中国の外交政策は許容されるものではない。国際司法の判断が下された時機だけに、中国の振る舞いがいかに不合理、国際政治の常識から逸脱しているか主要国間で確認し、協調した対応を進めるチャンスでもある。

 それを怠れば、中国は国際社会からの咎めがないと都合よく解釈し、身勝手な行動を続けるだろう。それは国際社会の安定を乱し、多極化、そして不安定化につながると考えられる。

 中国は南シナ海だけでなく、東シナ海にも進出しつつある。国際社会は中国の拡張主義に反対姿勢を明確にし、世論を盛り上げていくべきだ。状況を放置すれば、アジア新興国諸国はより厳しい状況に追い込まれるだろう。混乱を防ぐために、主要国は協調し是々非々の立場を明確にすべきだ。