理由は単純で、開発コストの削減だ。CPUを自社設計するよりも「もはやコモディティ化しているので、買った方が早い」(半導体メーカー幹部)。“心臓部”はARMを採用し、自分たちは半導体の特徴を際立たせる通信や画像処理といったそれぞれの得意分野に、開発リソースを集中できる。

 それに加え、「ARMを取り巻く『エコシステム(生態系)』の存在が大きい」と半導体メーカーは口をそろえる。エコシステムとはいわば共存共栄の仕組み。例えば、豊富な開発ツールやソフトウエア群である。半導体や最終製品に特定の機能を追加しようとした場合に、実現するための“部品”が、ARMにはそろっている。

 米エヌビディアのテグラマーケティング部長のマット・ウェブリング氏は「後方互換性があり、ソフトウエアの設計者もARMに精通している。専門性が磨き上げられたARMのエコシステムは代え難いものになっている」と語る。

 半導体を購入するメーカー側の声も大きい。ARMが主流のスマホメーカーはもちろんのこと、最近は国内の自動車メーカーからも「ARM対応のソフトウエアのサポートはどうなるのか」と半導体にARMを採用するよう要求する声があると、ルネサスエレクトロニクスの幹部は打ち明ける。

 低消費電力のCPUとエコシステムを武器に、半導体産業の影の主役へと上り詰めたARM。その成長はまだまだ途上だ。

 設計図を取得しても、実際に半導体が製造・出荷されるまでには数年かかる。いまのARMのロイヤルティの大半は、5年以上前に結んだライセンス契約からもたらされているのだ。いまも新規にライセンス契約を結ぶ企業は後を絶たず、契約数は伸び続けている。

 CPUの設計図を世界中に売り歩くARMに、既存の半導体メーカーの一部は頭を悩ませている。ARMの設計図を採用することで、従来なら自社でCPUを開発する能力のなかったメーカーも新規参入してきたからだ。低価格スマホ向けの半導体で台頭著しい台湾メディアテックやスプレッドトラムなどはその典型である。

 とはいえ、ARMにしてみれば、どこが勝者になろうとも、半導体にARMが「入って」いればいいわけで、採用先が増えるのは、ただただ歓迎すべき事態に他ならない。浮き沈みが激しい半導体業界だが、ARMが負け組になることは当面なさそうだ。

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