インテルのPC市場での繁栄を決定付けた「ムーアの法則」の発見から50年。その節目の年に、この世界最大の半導体企業は、乾坤一擲の賭けに出た。売上高わずか19億ドル(約2259億円)のファブレス(工場を持たない)メーカーであるアルテラを、約160億ドル(約1兆9028億円)で買収しようとしているのだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)
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パソコン(PC)用MPU(マイクロプロセッサユニット)で世界80%のシェアを持ち、米マイクロソフトと共に「ウィンテル連合」としてPC市場を支配した世界最大の半導体メーカー、米インテル。2014年も売上高559億ドル(約6兆6481億円)をたたき出し、過去最高を更新した。足元の業績には問題がないように見える巨人が、売上高では自社の30分の1ほどの企業を、約160億ドル(約1兆9028億円)で買収しようとしている。その相手は、米ファブレス半導体メーカー、アルテラだ。しかも1株当たり55ドルという、それまでの株価水準の2倍近い“破格”のオファーだ。
この現象を理解するには、これまでインテルが覇権を握ってきたプロセッサの「世界地図」が、様変わりしたことを見る必要がある。
PCやサーバなどでは地歩を築いたインテルだが、スマートフォン、ゲーム機などの他のデジタル製品の分野ではライバルに大きく水をあけられている。すなわち、CPU(中央演算処理装置)のIP(設計知的財産)を、半導体・セットメーカー向けに販売し、スマホ向けでほぼ90%のシェアを持つ英ARMだ。
例えばiPhone6のCPUは、ARMのIPをベースに米アップルが設計し、台湾のファウンドリー(製造専門会社)TSMCが製造したもの。このように、業界標準のIPを使い水平分業で製造するCPUが、PC以降のデジタル機器市場を席巻してきた。
一方インテルは、半導体の設計・製造・販売を全て自社内で担う旧来のIDM(総合半導体メーカー)のモデルにこだわる。そのようにしてPC向けプロセッサで蓄積したIPを、スマホ・デジタル家電・データセンターなどの別の市場に横展開しようとしてきた。
だが、いまのところ成果は芳しくない。14年の売上高の62%はPC事業。データセンター向けが25%、IoT(モノのインターネット)事業が4%、モバイル・通信事業が1%未満と、特にモバイルの苦戦は10年来続いており、14年も売り上げが減少している。