その後、世界恐慌の影響を受けてドイツでは社会不安が高まり、ナチス・ドイツが台頭した。このように、財政ファイナンスが進むと、通貨の増刷に歯止めが掛からなくなりがちだ。

 その結果として経済が大きく混乱した教訓から、主要国では中央銀行の独立性が重視されてきた。わが国では、財政法第5条が"国債の市中消化の原則"を定め、国債の日銀引き受けは原則禁止されている。このように今日の経済政策の裏に、財政ファイナンスが残した過去の教訓があることは明確に認識すべきだ。

ヘリマネに過大な期待を抱く市場参加者
"劇薬"と言われるリスクを考えるべきだ

 歴史が示す財政ファイナンスの弊害があるにもかかわらず、市場参加者の中でヘリコプターマネーに対する期待が高まっている。先述した7月14日の報道では、4月の時点で安倍政権の関係者がバーナンキ氏と流通性のない永久債(満期償還のない債券)を使った経済政策を議論していたことが明らかにされた。

 それを境に、ドル/円は104円台から105円台後半まで上昇した。そして、円安の流れと政策への期待から株式市場も上昇し、国内外で投資家の積極的なリスクテイクが進んだ。

 気になるのは、市場参加者がヘリコプターマネーに過大な期待を抱いている点だ。手詰まり感が漂う現在の財政・金融政策を考えると、新しい経済対策への期待は高まりやすい。そのため"新しい経済対策"に関するヘッドラインが流れると、期待が先行し、リスクテイクが進みやすい。

 今回の動きも、投資家の一部が市場の初動反応に流され、円売り、株買いに走ったのが実体だろう。そうした動きには注意が必要だ。経済対策の効果や弊害など明らかにならない中、多くの投資家が市場の雰囲気に流されている懸念があるからだ。

 リスクを認識しないまま、期待だけが膨らむことは、わが国の経済にとって好ましいことではない。財政ファイナンスを導入した多くのケースで、悪性のインフレが進み経済が混乱したという史実は冷静に考えるべきだ。

 市場関係者の多くは、財政ファイナンスが進む弊害を実際に感じたことがない。その意味では、ヘリコプターマネーは未知の政策と言えるだろう。未知のものに対して市場参加者は、シミュレーションなどを机上の空論に頼りがちだ。

 しかし、常に理屈通りに経済や金融市場が動くとは限らない。

 歴史を振り返ると、財政ファイナンスを通したヘリコプターマネーが長期的な経済の安定をもたらすとは考えづらい。今一度、歴史を振り返り、劇薬と言われる経済政策にどのようなリスクがあるのかを冷静に検討するべきだ。