達成が遅れるインフレ目標2%
2013年4月、黒田東彦日銀総裁は「2年で2%の消費者物価上昇率を達成」するという分かりやすいプレゼンテーションの下に、「異次元の金融緩和政策」を発表した。しかし、残念ながら、あれから3年以上経過したが、「2%」は達成されていない。
黒田日銀にも気の毒な面はある。一つには、予想外の原油価格をはじめとする資源価格下落だ。
また、2014年に予定通り実行された消費税率の5%から8%への引き上げは、アベノミクスの旧・三本の矢の2本目である「財政出動」を、いわば逆方向に放った愚挙だった。日本経済の足を大きく引っ張って、その悪影響が現在にも残っている。もっとも、消費税に関しては、黒田総裁自身が、金融政策の効果を過信したものか、税率引き上げに前向きだったので、一方的に「気の毒」と評するのは、不適切かもしれない。
なお、「2年で、2%」という約束にはプラス・マイナス両面がある。経済の参加者に確たる「期待」(≒将来の予想)を持ってもらうためには約束は期限を伴う具体的なものの方がいい理屈だが、約束を履行し損なうと、次に提示する約束を信じてもらうことがより難しくなる。これは「期待に働きかける」政策の本質的な難しさの一つだ。
日銀は、1月に「マイナス金利政策」を発表したが、海外経済の予想外の不振などを背景に円高が進み、今のところ十分な効果を得るに至っていない。
ここに来て、インフレ目標を達成するために注目されている政策が「ヘリコプターマネー」だ。
ヘリコプターマネーに関しては中央銀行ウォッチングの第一人者である加藤出・東短リサーチ社長の分かりやすい説明が、現在発売中の『週刊ダイヤモンド』(5月14日号)23ページの連載「金融市場異論百出」(ダイヤモンド・オンラインにも転載)のコラムに載っているので、参照してみてほしい。
ただし、加藤氏はヘリコプターマネーにも、そもそも黒田日銀流の金融緩和にも、賛成されていないようにお見受けする。
他方、筆者は、金融緩和政策に賛成であり、ヘリコプターマネーも正しく使うなら有効で好ましいと思っているので、拙文と加藤氏の連載コラムとを読者が両方読んで下さることを期待している。