内向化が止まらないアメリカ、南シナ海などで膨張し続ける中国、イギリスのEU離脱、IS(イスラム国)による相次ぐテロ……この動揺する世界を、日本はいかに乗り切るべきか?
前回に引き続き、人気ジャーナリスト・櫻井よしこ氏の最新刊『凛たる国家へ 日本よ、決意せよ』の中から紹介していこう。
◆前回の内容◆
オバマ氏とトランプ氏の「共通点」が、中国の暴走を招いた!
https://diamond.jp/articles/-/96780
アメリカのみならず、
イギリスでも「内向化」がとまらない…
1995年に『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞、1998年には『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。
著書に『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)、『「民意」の嘘』(花田紀凱氏との共著、産経新聞出版)、『日本の未来』(新潮社)など多数。
孤立主義と言い換えてもよい自国第一主義は、アメリカにとどまらず、ヨーロッパにも急速に広がっている。イギリスは2016年6月の国民投票で、EU離脱を決定した。33万3000人の移民が流入し、社会不安が生じ、離脱派が急速に勢いを増した結果である。
強烈に離脱反対の論陣を張ったキャメロン首相は敗れ、7月13日、テリーザ・メイ氏が新首相に決定し、イギリスは敢然と次の段階へ進もうとしている。
だが、その前途は決して明るくはない。EU離脱によって経済的にはおそらく縮小していくと思われる。EUに残りたいスコットランドは、イギリスからの離脱を考え始めた。仮にスコットランドが去れば、イギリスは国土の3分の1を失う。北海油田も失う。原子力潜水艦が停泊できるイギリス唯一の軍港を持つクライド海軍基地も失う。かくして連合王国のイギリスは、グレートブリテンどころか、小さなブリテンの国になってしまいかねない。
イギリスのEU離脱は、アメリカとEUの関係も弱体化させかねない。イギリスはアメリカにとってかけがえのない支持国であり、最善の理解者であった。第1次世界大戦も第2次世界大戦も彼らは共に戦った。
戦後の戦争でも、ベトナム戦争を除くすべての戦争で、両国は共に戦った。アメリカとヨーロッパの架け橋だったイギリスのEU離脱で、アメリカのEUに対する影響が低下するのは当然である。
その他の欧州諸国でも
似たような動きが加速…
イギリスと同様の動きは、EU諸国でも急速な広がりを見せている。フランスでは右翼政党「国民戦線」党首のマリーヌ・ル・ペン氏が支持率を高めており、来年(2017年)の初夏に予定されている大統領選挙の最有力候補である。
彼女の政策は反EU、反移民、反難民である。フランス独自の価値観とフランス独自の文化、文明を大事にしたいという自国第一主義である。
ドイツはメルケル首相が110万人の難民を受け入れ、シリアをはじめとする諸国の難民からは非常に感謝されている。悲鳴を上げているのがドイツ国民だ。110万人の難民流入で、街の様子が変化する。多大な予算も必要だ。
不満と不安が高まり、反移民、反難民、反EUの気運の中で、支持を広げたのが、フラウケ・ペトリーという女性リーダー率いる「ドイツのための選択肢」という政党である。ドイツ連邦議会選挙は来年秋の予定である。
自国第一主義の右翼的な政党は、同様にポーランド、オランダ、チェコ、スロバキアなどでも台頭した。2016年5月に大統領選挙を行ったオーストリアは、0.6%の差でEUに背を向ける極右政党が敗れたが、この選挙に不透明な部分があったと右翼政党側が主張し、大統領選挙はやり直されることになった。