内向化が止まらないアメリカ、南シナ海などで膨張し続ける中国、イギリスのEU離脱、IS(イスラム国)による相次ぐテロ……この動揺する世界を、日本はいかに乗り切るべきか?
人気ジャーナリスト・櫻井よしこ氏の最新刊『凛たる国家へ 日本よ、決意せよ』の中から紹介していこう。

オバマ氏とトランプ氏の「共通点」が、<br />中国の暴走を招いた!「南シナ海は古代から我々のものだった」と強硬姿勢を見せる中国。これを招いたオバマ外交の基本メッセージは、実はトランプ氏にも共有されている。

「南シナ海は古代から我々のもの」
という中国の主張に「違反」判定が下った

オバマ氏とトランプ氏の「共通点」が、<br />中国の暴走を招いた!櫻井よしこ(さくらい・よしこ)ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、同東京支局長、日本テレビ・ニュースキャスターを経て、現在はフリー・ジャーナリスト。
1995年に『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞、1998年には『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。
著書に『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)、『「民意」の嘘』(花田紀凱氏との共著、産経新聞出版)、『日本の未来』(新潮社)など多数。

いま、私たちの眼前で起きているのは、国際社会の法を守る陣営と守らない陣営の対立である。

2016年7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、中国が南シナ海に独自に設定した境界線「九段線」には法的根拠がないとする裁定を下した。これは中国の主張や行動は国連海洋法条約に違反するとして、3年前にフィリピン政府が訴えた仲裁手続きに関する判断である。

裁定は確定的であり、上訴は許されない。すなわち、最終決定である。

「南シナ海は2000年も前の古代から中国の海」だとしてきた主張は退けられたのであり、中国の完敗である。

常設仲裁裁判所の裁定文は500ページを超える大部のものだが、そこには、前述の南シナ海のほとんどすべてが中国の海だと主張する根拠、すなわち九段線は認めないという点に加えて、以下のような他の重要な論点も含まれている。

・中国がスプラトリー諸島のミスチーフ礁で造成した人工島は、フィリピンの排他的経済水域の200カイリ内にあり、フィリピンの主権を侵害している

・スプラトリー諸島には国際海洋法で認められる島はない、したがってそこに人工島を造成したとしても、人工島を基点にして排他的経済水域、領海などは形成されない

・中国はフィリピン漁民の活動を著しく妨害した

・中国は生態系に取り返しのつかない害を与えた

などである。

国際社会のルールを
受け入れるつもりがない中国

ただ、中国側は仲裁裁判自体を認めない、したがって裁定そのものも受け入れないと早くから宣言し、アメリカが空母10隻を南シナ海に展開しても中国は恐れないなどと強硬姿勢を取ってきた。

事実、仲裁裁判所が裁定を公表する予定を明らかにすると、中国は南シナ海に主力艦隊を集結させて、これまでで最大級の軍事演習を1週間にわたって実施してみせた。

南シナ海を管轄する南海艦隊のみならず、北海艦隊、東海艦隊も参加しての大規模軍事演習の映像を公表したのは、フィリピン政府のみならず国際社会に、どのような国際法に基づく判決であろうとも中国は受け入れないという固い国家意思を明らかにしたものだ。中国は法の支配を離れて力の支配を選択したのである。

国際法を尊ぶ国々にとっての課題は、裁定をどのように具現化するかである。裁定が出された当日も、習近平主席は北京で開かれた欧州連合(EU)との会議においてトゥスク大統領に対し、「中国の南シナ海における領土主権と海洋権益は、いかなる状況下でも裁定の影響を受けない。裁定に基づくいかなる主張や行動も受け入れない」と語った。

言葉による拒否だけでなく、行動においても中国は強い拒否の姿勢を示した。南海艦隊が海南省三亜市の海軍基地に最新鋭のミサイル駆逐艦「銀川」を配備、命名式を行い、スプラトリー諸島のミスチーフ礁とスービ礁に建設済みの飛行場では、彼らは民間機の試験飛行を実施した。