20年もの長きにわたって低迷を続ける日本経済を、気鋭の経済学者とともに検証する。第2回は、星岳雄・カリフォルニア大学サンディエゴ校国際関係・環太平洋地域研究大学院教授に聞く。

長期デフレの主因は
マクロ政策の失敗

星 岳雄(Takeo Hoshi)
カリフォルニア大学サンディエゴ校国際関係・環太平洋地域研究大学院教授 1960年生まれ。東京大学教養学部卒業、米マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了。経済学博士。米カリフォルニア大学サンディエゴ校准教授、教授を経て、2002年より現職。専門は金融経済。05年日本経済学会・中原賞受賞。主な著書に『日本金融システム進化論』(共著、日本経済新聞社、06年)。Photo by Masato Kato

──日本経済の現状をどうとらえているか。

 明らかにデフレに陥っている。それは1990年代半ばから15年ほど続いている。GDPデフレーター(名目GDP/実質GDP)で見ても、消費者物価指数上昇率で見ても、明らかだ。

──デフレに陥った原因は。

 教科書的にいえば、経済全体で見た需要と供給のバランスが崩れること、すなわち総需要が総供給を下回ることがデフレの原因である。ではなぜ、アンバランスが起きるのかといえば、生産能力が伸び過ぎるか、もしくは需要が追いつかないかのどちらかである。

 中国をはじめとする新興国との貿易が増え、これまで以上の量をこれまで以上に安く生産できるようになった場合、需要がこうした生産能力の伸びに追いつかなければ、デフレにはなるが、経済は拡張する。しかし、日本では経済は縮小した。これはグローバル化によって生産能力が増し、需要が追いつかないという供給側の要因というより、国内の需要が伸びなかったという需要側の要因のほうが大きかったことを示している。

──なぜ総需要は伸び悩んだのか。

 バブルの崩壊に始まる景気の後退があって、需要が後退したということが、その理由としてあるだろう。しかし、これほどの長い期間、デフレが続いた最大の原因は、マクロ経済政策の失敗にある。

 再び教科書的なことをいえば、マクロ経済政策、つまり財政政策と金融政策はどちらも総需要を増やすことができる。拡張的なマクロ経済政策を行えば、それなりにデフレは解消されるわけだ。ところが、まず財政政策について、90年代前半には拡張的だったものの、その後国債残高が増加したこともあって、思い切った刺激策を断続できなかった。象徴的なのは、96年で、景気が回復したとの判断で財政を引き締めたら、また不況に陥ってしまった。

 もう一つは金融政策の失敗である。金利がゼロに達してしまった後も、日本銀行は非伝統的金融政策に対してきわめて消極的だった。今もその状況は変わっていない。2000年8月に、99年2月から行っていたゼロ金利政策を解除したのが象徴的だ。無担保コールレートを0%から0.25%へと、上げ幅は小さいものだったが、たとえデフレの最中でも日銀は金融を引き締めるとのシグナルを出したという点で、重い政策転換だった。こうした財政・金融政策の失敗が、デフレをこれだけ引き延ばしている主要な原因である。