機械を使うと「丁寧な介護ではない」?

 まず、介護現場の職員が介護リフトを間近に見ていないことが挙げられる。教育や研修の場で教えられない。講師からは、移乗の「技」を職人芸のようにじっくり仕込まれる。そのため「機械を使うのは、丁寧な心のこもった介護ではない」という観念をしっかり刷り込まれる。

 有料老人ホームの全24施設で62台の介護リフトを導入している先駆的なオリックス・リビング(東京)でも、当初は入居者を「モノ扱いして」と抵抗があったという。

 2011年に試験的に導入した千葉市の施設「グッドタイムリビング千葉みなと/駅前通」で、腰背部の「だるい・重い」症状を訴える職員が1年後に急減。入居者の心身の改善も明らかになり、全施設への設置をトップが決断した。

「リフト作業では高齢者とずっと正面から向き合うことができる。抱き上げと違って、互いの顔の表情が分かり、空中に浮いても利用者の安心感は大きい」と担当者はその効果を話す。

 福祉用具に詳しい福祉技術研究所代表の市川洌さんは「リフトを使えば、利用者とのコミュニケーションの密度が高まって、お互いの意思疎通が深まる」と、「冷たい機械」と言う通俗説を一蹴する。「職員が力を入れなくていい分、ゆとりが出て声掛けが増えるからです」と言う。

「冷たい機械」が「温かい人間関係」を生む。リフト批判として「抱き上げより、作業に時間がかかり面倒」と言う声が必ず現場から挙がってくるが、市川さんは「きちんとした使い方の研修体制が足らない。これからの課題」と教育の普及を強調する。

 これまでリフトメーカーや販売会社のグループが使用法を学ぶ研修会を開いてインストラクターを養成したり、テクノエイド協会が指導者を育成してきた。いずれも供給サイドの活動であったが、2014年1月に利用者側の推進団体が立ち上がった。

 全国ノーリフティング推進協会(本部名古屋市、代表理事・杢野暉尚サン・ビジョン理事長)である。特別養護老人ホームなどを運営する31の社会福祉法人のほか4つの医療法人、それに、有料老人ホームを手掛ける東京海上日動サムュエルとオリックス・リビングの株式会社2法人が会員となっている。

 会員に、「ノーリフトの担当者がいるか」「研修は受けたか」など15項目のチェックリストを渡して、あるレベル以上であれば認定証を交付するという。やっと、介護現場が動き出したようだが、まだまだ「抵抗」勢力は根強い。

 高齢者の家族や多くの国民が「体を使うのが温もりのある良い介護」という考えから、抜け出ない。なぜか。

「介護は家族の責任」という家族介護への固執から抜け出せないからだろう。施設に入所すると、「家族代わり」の介護を求めてしまう。入浴、トイレ、食事などで親密な自宅介護の延長を期待する。だが、夫婦間はともかく、息子や娘、孫などとの肌の触れ合いを本当に本人が望んでいるだろうか。

 本人たちは実は「家族にも施設職員にも相当に気を使っている」というアンケート調査も少なくない。親愛の情よりも、安全で安心な関わりを求めているのが本音だろう。体の動かし方ひとつでも、身内といっても人さまざまであろう。不快な思いを必死で我慢していることも多い。

この7月に東京で開かれた「国際モダンホスピタルショウ2016」で、福祉用具製造販売のシーホネンス(大阪市)が輸入品の天井走行型リフトを出品し、使用法を説明していた

 家族介護にストップをかけることも介護保険法の目的のひとつだった。「脱家族介護」、「介護の社会化」が喧伝された。異分野から多くの企業が仕事として参入している。そんな「社会化」の大きな要素として、補助器具の活用も挙げられる。家族の無償労働から社会的な労働、一般サービス業への転換が迫られている。介護リフトの活用は、その流れのひとつでもある。重要な「社会化」と捉え直したい。

 脱家族介護への意識転換には時間がかかりそうだがが、取り残された大きな課題であることに間違いない。「介護ロボット」の議論を契機に補助器具の導入が進んでほしいものだ。