介護職の低賃金構造は改善されるか?

最低賃金が大幅アップするも、東京の介護報酬は低いまま

 介護職の低賃金が問題となっているなか、あらゆる職業に適用される最低賃金が新しく決まり、全国平均で前年より24円、3%引き上げられ822円になった。これまでにない最高の上げ幅だ。

 3%アップは安倍首相の強い要請による。自民党の首相が率先して労働者の賃金アップに乗り出すのは異例と言っていい。なぜなのか。

 現在500兆円のGDPを2021年度までに600兆円に増やそうとする安倍政権。経済成長の足かせとなる障害を外すには、介護と保育の課題に目を向けざるをえない。企業の働き手が、子育てや老親介護で思うように仕事ができなくなれば、企業活動は停滞しGDPは伸びないからだ。

「女性が輝く社会」「同一労働同一賃金」「春闘の賃上げ」など野党や革新勢力のかつてのスローガンを飲み込みながら、檄を飛ばす。2025年度までに生涯出生率を1.8%に高め、介護離職ゼロという「荒唐無稽」な目標も掲げる。具体策として保育所と介護施設の増設計画を打ち出し、次いで、この両サービスの担い手である職員不足の解消に乗り出した。

 低賃金構造の改善である。保育士は月額6000円、ベテラン保育士は最高月4万円のアップ、介護職員も月1万円の増額を共に2017年度から始めるという。なにしろ、保育を含む家族政策への財政支出のGDP比は、スウエーデンの3.6%、フランスの2.9%に対して日本は1.3%に過ぎない。

 しかし、この程度の引き上げでは、一般産業界に比べ月9~10万円も低い賃金体系の見直しにならないだろう。

 では、賃金アップの道筋はどこにあるのか。重要な梃になるのが最低賃金の引き上げだろう。最低賃金法によって、労働者が不当に安い賃金で働かされることを防ぐため、国が賃金の最低額を定めている。

 最低賃金額を下回って労働者を雇うことは違法で、違反した場合は罰金が科される。正社員だけでなく、非正規社員やパートタイマー、派遣労働者など雇用の形態に関係なくすべての働き手に適用される。

 経営者と労働者の代表と中立的な有識者でつくる、厚労省の諮問機関の中央最低賃金審議会が毎年、時給の上げ幅の「目安」を示し、厚労省に答申する。今年度は7月28日に答申を終え、秋にかけて各都道府県の地方最低賃金審議会が地域の実情に配慮しながら、地域別の具体的な最低賃金を最終決定する。10月には現場で適用される。

 上げ幅は、物価や労働者の生計費、賃金、企業の支払い能力などを総合的に考慮し、さらに生活保護支給額を下回らないよう配慮される。現実は、値上げに抵抗する中小企業団体からの圧力によって、大幅増がかなわない歴史を辿ってきた。「賃上げによって社会保険料の負担が増えることが、経営を左右しかねない」との訴えが常に上がっている。

 今回の3%アップは、労働側と経営側の間に立つ大学教授らの公益委員が、安倍政権の要望を受け入れて実現した。いわば異例の判断と言えるだろう。「働き方改革」を掲げ、「同一労働同一賃金」を目指す政権にとって、最低賃金に近い報酬で働くパートなどの非正規労働者の賃上げへの期待感が強い。

 日本では、非正規労働者は正規労働者との賃金格差が6割ほどに達しており、欧州諸国の8割に比べ大きい。「同一労働同一賃金」に少しでも近づけ、政権の成果としたい思惑があるからだ。