政府が新たな経済対策を決定しました。真水で7.5兆円、事業規模が28兆円と、そこまで大規模な財政出動が本当に必要なのかと突っ込みを入れたくなりますが、それ以上に問題なのは、“未来への投資”を標榜しながら、働く人の将来の所得増加につながる政策が足りないということです。これでは、働く人の圧倒的多くが感じている将来不安は払拭されないのではないでしょうか。

弱い立場で働く人のための
環境整備は頑張ったけれど…

今回の経済対策、弱い立場の働く人を救う対策は取られましたが、根本的な働く不安の解消にはなっていないようです

 もちろん、今回の対策では、働く人の環境改善に向けた政策はたくさん講じられており、それ自体は評価すべきです。

 保育と介護の受け皿整備、保育・介護人材の給与引き上げ、育休の期間延長といった政策は、保育や介護のために仕事を犠牲としなければならない人たちにとっては、大きな環境改善となります。また、最低賃金の引き上げは、低賃金に悩まされてきた非正規雇用の人たちにとっては大きな福音です。

 ただ、これらの取り組みは、保育や介護に追われる人や低賃金の人といった、労働者の中でも弱者のための政策といえます。しかし、今の日本の雇用や労働に関する課題はそれだけではありません。

 そもそも経済政策の最大の課題は、欧米と比べて低い日本経済の生産性を引き上げて潜在成長率を高めることにあります。その現実からは、現状の低い失業率や高い有効求人倍率で安心している余裕はありません。労働者が生産性に見合った賃金を得られるようにする、衰退産業から成長産業への雇用の移行が進むようにする、といった対応が不可欠です。

 そして、それらを現実のものとするためには、終身雇用、年功序列、新卒一括採用といった日本的な雇用制度を変えなくてはなりません。そもそも働く人のうち非正規雇用の割合が37%という現実を考えると、終身雇用のメリットは大企業の正規雇用という既得権益層しか享受できていません。そして何より、グローバル化とデジタル化という構造変化が急速に進む中では、イノベーションの継続的な創出が不可欠となりますので、職場が同質的な人の集まりとなる終身雇用はこれらの構造変化との親和性が低いと言わざるを得ません。