第一に、典型的な愛国主義的なコメントである。

 「私は祖国を愛している。国の滅亡は、国民に責任があるので、一切を惜しむことなく国を守らなければならない」
 「西側の国のやつらは平和主義の看板を掲げて、いたるところで挑発を繰り返している。遅かれ早かれ報いを受けることになるだろう」

 この手のコメントはアメリカを批判し、「私は中央を支持する」といった中国共産党と中国政府への支持を表明する文字通り「愛国的・愛党的」コメントで、かつての反帝国主義運動のスローガンと大差ない。紀氏の発言に対しても「(戦争になったら)自分は後方支援をする」など好意的であった。

 第二に、罵りのコメントである。

 「お前が先に死ね」
 「あんたは南中国海戦争に行くんだな」
 「14億人死んだら、亡国ではないのか」
 「低レベルな話だ」
 「紀連海は人間のクズだ」

 上に挙げた例のように、批判は「10億人犠牲」に集中している。10億人が犠牲になるという紀氏の発言が自分たちを見下しているのではとネット民はとったようだ。

 第三に、行き過ぎた考えを穏やかに批判する声である。

 「10億というのはどんな概念なのか?中国人の命は価値がないということなのか。南中国海、東中国海の争いは利益をめぐるものであり、目的は利益だ。多くの手段によって目的は達せられ、今の中国はとりうる手段が多い」
 「盲目的な愛国は国に害をもたらす。人の気持ちが分からず、人命を軽視する学者に愛国を語る資格があるのか?愛国には戦争が必要で、10億人の命と引き換えにするというのか。戦争は特別な状況下で起こった虐殺である」

 この手のコメントは感情的に罵るのではなく、上の例のように割合理性的に相手の発言を批判する。

 紀氏の発言に対するコメントは批判的なものが愛国的なそれを上回り、とくに紀氏を「血に飢えたやつ」などと罵る声が多かった。

 紀氏の「10億人犠牲論」にメディアも反論した。香港のフェニックステレビ系のウェブメディア「鳳凰網」は微信上で「『10億人犠牲論』は愛国の名を借りた非理性的な考えだ」と題した記事を掲載し、「10億の命と南中国海仲裁案という『紙くず』またはある国の利益と、一体どちらが重要なのか」と人命を軽視する紀氏の発言を批判した。さらに、「国民の生命は最も重要な国家利益」として、国益を無視した愛国を戒めた。

 また、大手ポータルサイト「捜孤」が発表した「愛国は内部分裂を引き起こし、内部の者への敵意を作りだすものではない」と題した記事は、「(愛国者が)盲目的愛国というモノサシで同胞をランク付けすれば、同胞を犠牲にしてもいい『10億人』、打倒されてもいい非愛国の人々に分けてしまう」と述べて、「10億人犠牲論」に反論した。この反論は紀氏を罵るコメントを残したネット民の立場に立ったものといえよう。