中国人の著者から見ても、中国の愛国主義教育にはおかしな点が見受けられるという

“南シナ海バトル”と
一般市民の日常生活

 夏休みに入り、子どもと一緒に北京を出て張家口市の北にある張北県に行ってみた。200キロくらい車を走らせたらもう大草原に出ている。北京から草原は意外に近かった。

 張北県はモンゴル高原の入り口に当たる丘陵地であり、景色は美しい。草原天路に近づくと「愛国主義教育基地」の小さな看板があった。ここはとくに歴史上、大きな戦争があったわけではないから、美しい景色を見て国を愛そうと呼びかけるものだろう。

 国際社会は長期にわたり、中国のナショナリズムとその外交政策を結びつけ、国の外交政策はナショナリズムの影響を受けて展開されていると認識してきた。日本の報道を読むと、とくにそうした関連の記述が多い。日本は、中日関係の悪化を「1990年代に中国政府が推進した愛国主義教育運動に帰する」と見なしているきらいがある。

 故宮博物院や頤和園などに行くと、確かに英仏などによる略奪、または焼き払いについて記録した小さな看板をよく見かける。盧溝橋などの特別なところに行けば、日本との関連も記録されている。愛国主義教育といえば、まずは英仏などの侵略によって中国が受けた苦難から始まる。

 確かに、中国政府は1989年における「六四事件(6月4日の天安門事件)」の影響を受けて長期にわたる愛国主義教育運動を推進し、若者世代のなかに国家アイデンティティを確立してきた。当時の指導者の判断は、「若者世代の過激な政治運動への参加は西欧思想の過度の思想の摂取による」というものだった。この愛国主義教育運動はかなりのレベルで、異なる形式を通じて今日まで続いている。ここ数年、テレビで抗日戦争を題材にしたドラマが尽きることなく繰り返し放映されていることにも、その影響を見てとることができよう。

 ただし、愛国主義教育といえば歴史ばかり注目されているわけではなく、郷土に対する愛もかなり強調されている。

 また歴史関連の愛国主義教育運動が成功しているとは言い難い。中国人の日本に対するアイデンティティを例にとってみれば、ここ数年来、中国人は遠路を厭わず日本に出かけ、温水シャワー付きの便座、炊飯器、風邪薬、避妊具などの日本製品を「爆買い」し、その勢いは各国を驚かせた。欧米諸国の商品に対しても同様である。