大学3年生の就職活動が始まっている。学生の話を聞くと、金融業界への就職を希望する学生は例年同様、少なくないようだ。

 学生が金融業界を目指す理由は、収入が多いこと、安定していること、特定の商品・サービスに偏らずに、世間と広くかかわれることの3点だろうか。

 バブル崩壊後の損失計上と「銀行員の高給」への批判を受けて、金融業界の相対的な収入水準はかつてほどではないが、それでもメーカーよりはかなり高い。国税庁が発表した民間給与実態統計調査の業種別データでも、金融は、電力・ガスに僅差で次ぐ高給業種だ。

 ただし、金融危機を経て、目下のトレンドは、世界的な信用収縮であり、多くの分野で金融が儲けにくくなっている。

 金融の場合、ビジネス分野が特定の商品に偏していないという特色は、昔から、商社などと競合した学生を説得する際に銀行がよく使った説明だが、間違いではない。それでも、かつてのように銀行への就職者全員に、とりあえずは支店長を目指したゼネラリスト教育を行うような余裕は、メガバンクといえどもない。システムなり、市場取引なり、あるいは法人取引なり、なんらかのスペシャリストを目指す必要性が高まっている。一生を通じて、さまざまな産業とかかわり続ける、というイメージは満たされない可能性がある。

 明らかに間違いなのは、「安定」を求めて金融業界を目指すことだ。ビジネスの構造からして、金融は、決して安定したビジネスではない。日本長期信用銀行を、山一證券を、そしてリーマン・ブラザーズを見よ。そして、今残っている日本の大手銀行はすべて、経営統合や買収など、経営体を変化させてきた。銀行、保険、証券、ノンバンク、いずれであっても、いったんバランスシートが歪むと立て直しがきかない場合が多い。

 倒産もありうるし、経営統合の場合、主導権を持てなかったほうの組織の出身者は人事的に冷遇されることが常識だ。反面、特定の会社で不遇でも、転職によるリセットが容易なのは金融の強みだ。