a『英国セント・キルダ島で知った何も持たない生き方』
井形慶子著(筑摩書房/2013年)(オリジナル版の出版は2003年)

 絶海の孤島での質素で、それこそ「何も持たない生き方」を活写しており、評者はそこに地方自治の原型を見る。地方自治とは、地域のことを自らの責任と判断で決めることだ。島では毎朝、大人から子どもまで全員参加の「セント・キルダ議会」が開かれる。議題は、その日にすべき仕事と、その方法を決めること。そこでは、皆が熱心に話し合う。

 地方議会は、まさしく地域の重要なことを話し合いで「決める」ためにある。迷走する地方議会改革は、まず本書に学んだらいい。ただ残念なことに、島では外界との接触や交流によって、独自の文化やライフスタイルへの自信が失われ、同時に自治の精神も衰える。

 その様子は、わが国の地方の衰退とも重なり合う。

(早稲田大学公共経営大学院教授 片山善博)