ベゾス氏Photo:Reuters

 アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏とIT(情報技術)に精通したサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、2018年はおおむね親しくつき合っていたようだ。

 2人はアマゾンがサウジに巨大なデータセンターを建設する計画についてメッセージアプリ「ワッツアップ」でやり取りし、友好的で互いに有益な関係を築いていた。「友よ、あなたが未来投資フォーラム開催の際にサウジを訪れ、われわれがこの28億ドルの『ビジョン2030』に関するパートナーシップについて発表することは私にとって非常に重要なことだ」。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認したメッセージ文や事情に詳しい複数の関係者によると、ムハンマド皇太子は18年9月9日にベゾス氏にこうメッセージを送った。

 アマゾンは中東市場に幅広いアクセスを得ようとしていた。これはムハンマド皇太子がサウジの経済改革や自身の知名度向上の取り組みを進める上で助けになる可能性があった。

 だが今、世界で最も裕福な人物の1人と世界で最も影響力を持つ皇太子の1人は敵対し、互いの裏切りを非難し合っている。

 事情に詳しい複数の関係者によると、ムハンマド皇太子は18年の1年間を通して徐々に、ベゾス氏が保有するワシントン・ポスト紙が反体制派のサウジ人記者ジャマル・カショギ氏による批判的なコラムを掲載することに不満を募らせていった。ベゾス氏は、同年に皇太子に雇われた人物らがカショギ氏を殺害したことを受け、非常に不快感を持った。

 しかし、両者の確執が表沙汰になったのは先週のことだ。ベゾス氏の依頼で行われた調査リポートで、ムハンマド皇太子が18年5月にワッツアップのメッセージを介してベゾス氏のスマートフォンにスパイウエアを仕掛けたことが明らかになった。調査会社はこの事実に「中程度からかなりの自信」を持っているとしている。

 サウジ政府は皇太子によるベゾス氏のスマホのハッキングを否認している。WSJは、ベゾス氏のスマホに侵入する計画をサウジ関係者が認識していたが、ハッキングが実際に行われたことは知らなかったと報じた。

 ベゾス氏の弁護士も、サウジ政府関係者もこの記事についてコメントを控えた。アマゾンの広報担当者はデータセンター建設計画の詳細についてコメントを控えた。

 18年後半、タブロイド紙「ナショナル・エンクワイアラー」が当時結婚していたベゾス氏とガールフレンドのローレン・サンチェス氏の際どいメッセージや写真を受け取り、19年1月にその一部を掲載した。ベゾス氏はこの件にサウジが関与している可能性を示唆したが、エンクワイアラーとサウジ政府はその主張に異議を唱えた。