ちゃんとした人には「むしろ見えない」思考の盲点Photo: Adobe Stock

先行きの見えない2021年。これからは「新しいこと」や「人と違ったこと」を考えるスキルが重要になってくる。だが、「考える」といっても、いったい何をどう考えればいいのか?
そんな人に読んでほしいのが、このたび刊行された書籍『考える術──人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』だ。
著者の藤原麻里菜氏は、「無駄づくり」という異色のコンテンツをネットを中心に展開しており、これまでに何百もの作品を発表、その人気は海外にも波及し、台湾での個展では2万5000人もの観客が殺到、SNS再生数は4000万回にも達する話題の発明家だ。
そんな著者が、これまでに発明を何年も継続してきた中でつかんだ「考えるテクニック」をあますところなく詰め込んだのが本書だ。「何も出てこない……」とうんうんとうなっているなら、本書をパッと開いて、好きなワザを使ってみてほしい。「逆転」「主語変え」「マナー破り」「合体」「似たもの合わせ」……便利に使える思考ワザが満載である。
本稿ではこの『考える術──人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』から特別に、一部を抜粋・編集して紹介する。

「当たり前のこと」は盲点になる

 雛人形や茶道に歌舞伎など、伝統文化について、多くの人はあまり考えずに、現状のあり方をそのまま受け入れているところがあります。

 しかし、少し立ち止まって考えると、いまの感覚からすると面倒だったり不便に感じる部分も多く、それが敷居の高さにつながっていたりもします。

 本書では先に、「問題」を見つけて、その解決策を考えることでアイディアが生まれると話しましたが、ふだんは「当たり前」と考えていることを改めて見直すことでも問題を見つけることができるのではないでしょうか。

 茶道を例にとると、たくさんの決まった工程を経てお茶を点てるという行為は面倒といえば面倒です。わたしも中学生のときに茶道を習っていましたが、工程を覚えることがなかなか難しく、電気ケトルでジャーッてお湯を入れてマグカップで出してみんなでワイワイ話せばいいじゃん、と考えたりしていました。

 じゃあ、もはやわびさびすらなくてもいいと考え、便利さを追求するとどうなるでしょうか。

 たとえば「オンライン茶会」ができたら便利です。オンライン飲み会が流行ったように、オンライン茶会も工夫をすれば成り立ちそうですね。ビデオチャットで各々の好きな場所でお茶を飲むことができたら楽で、敷居も下がるはずです。

 また、お茶の点て方を身につけるにはかなりな時間がかかりますが、自動的にお茶を点ててくれるロボットがいたらとても便利になります。お茶点てロボットが亭主の茶会があったら、かなり楽しそう。ロボットが雑に点てたお茶をおごそかに飲む光景を見てみたいです。

「本質」を台無しにしてみると?

 伝統文化とテクノロジーを掛け合わせ、伝統文化の本質といえる部分を台無しにすることで、独自性のあるユーモアが生まれます。

 テクノロジーを使ったコントをする「テクノコント」というグループがあり、わたしもその一員なのですが、その中で行った「テクノ落語」という演目がまさにそれを体現していたので紹介させてください。

 落語でよく、そばをすするシチュエーションがあります。落語家が扇子を箸に見立ててそばを食べるマイムをするのですが、まるでそこにおいしいそばがあるかのような、出汁の匂いがするかのような、とてもリアルなマイムです。きっとこれを習得するのには、何年も何十年も修業を積まなきゃいけないんだろうなと思わせられるものです。

 でも、テクノ落語ではそばのシーンにAR技術を使っていました。そばをすするシチュエーションになると、スマホのインカメラで自分の顔を映す。すると後方のモニターに、その人の口にそばが入っていく映像が現れるのです。

 スマホの写真加工アプリで、虹が口から出るエフェクトがありますが、あのような感じでそばがズルズル口に入っていく。伝統芸能の良さを全消しする演出です。

 わたしはこれを見て、伝統芸の良さを一切なくすとこんなにインパクトが生まれるのかと感動しました。

「疑問なく受け入れているもの」を覆す

 伝統文化は尊重されるべき大切なものではありますが、あえて立ち止まって本質を覆す考え方をすることで、面白いアイディアが生まれやすいです。

 これは伝統文化に限ったことではありません。慣習になり、ふだん何の疑問もなく受け入れていることに対して、一度立ち止まって、根本からひっくり返すような考え方をしてみると、アイディアのきっかけをつかむことができるのです。

【考えてみる】「近未来の落語」をテーマに、新しい落語のかたちを考えてみよう。

 わたしは「サンプラー落語」というものを思いつきました。そばをすする音など、普通は口から出す効果音をすべてサンプラーにまかせる落語です。DJが盛り上げるときによく鳴らすフォンフォンフォーンという音も組み込むことができ、演芸場ではなくクラブに活動の場を広げられそうですね。

(本原稿は、藤原麻里菜著『考える術──人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』の内容を抜粋・編集したものです)

藤原麻里菜(ふじわら・まりな)
1993年、横浜生まれ。発明家、映像クリエイター、作家。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とかつくりあげる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。SNSの総フォロワー数は20万人を超え、動画再生数は4000万回を突破、その人気は中国、アメリカ、ヨーロッパなど海外にも広がっている。2016年、Google主催「YouTubeNextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展――無中生有的沒有用部屋in台北」を開催、2万5000人以上の来場者を記録した。Awwwards Conference Tokyo 2020、eAT2018 in KANAZAWA、アドテック2016東京・関西などで登壇。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択。最新刊に『考える術──人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』がある。