猛烈仕事人間だった主人公は、「忙しい」を理由にたくさんの人間関係を捨ててきた。学生時代の友人の娘が亡くなったことを知りながら、お悔みの手紙一通出さなかった。よき理解者だった叔母が行方知れずになっても探そうともしなかった。卒業旅行の途中で「帰国したらすぐに返すから」といって友だちからお金を借りた。でも返さなかった。そうして旅行の思い出を語り合えるかけがえのない友だちを失った――。
どうして人を大切にできなかったのだろう。もう関係修復は不可能なのだろうか。
新刊『僕は人生の宿題を果たす旅に出た』(リー・クラヴィッツ著)は、リストラされたのを機に、捨ててきた人間関係を取り戻そうと決めた男の物語である。彼は、関係を修復したい10人を選び、職探しをする代わりに1年かけて、再会を果たそうと決意する。
はたして彼は、大切な人との絆を結び直すことに成功するのだろうか。
『僕は人生の宿題を果たす旅に出た』のなかからエピソードの一部を紹介しよう。

僕をもっとも悩ませた「宿題」

 約束を破ったことがあるだろうか。

 僕は、おそらくこれまで何百という約束をしては、守らずにきた。
 やり残した人生の宿題を果たそうと決めたとき、もっとも僕を悩ませたのは、ケニアの難民キャンプで、ある少年と交わした約束だった。

 1994年、サハラ砂漠以南のアフリカの情勢がとても不安定なときだった。
 48ヵ国のうちの3分の1が戦争に巻き込まれ、ルワンダとブルンジの大統領が飛行機事故で死んだ。
 その月、国連の世界食糧計画は、27万人の難民とその地域で起こった干ばつの犠牲者55万人に食糧を提供した。

 ケニアを訪れたのは、国際社会科学学会に出席するためだった。
 当時、僕は、時事問題を扱った教材用の雑誌を編集していた。アフリカ諸国は、独立後の専制統治から複数政党制民主主義への転換を遂げようする過程にあった。僕は、そうした国々が直面する問題を学びたかったのである。

 政治的指導者や学者らに話を聞くことになっていたが、さらにアフリカの苦しみをこの目で見たいと思った。
 午前のあいだに開会中のケニア国民議会を見学し、午後はナイロビのストリート・チルドレンと一緒に活動するプログラムに参加するつもりだった。難民キャンプも訪れたいと思った。