世界の政財界トップが愛読する英経済誌「エコノミスト・ロンドン」の元編集長で現在国際ジャーナリストとして活躍するビル・エモット氏はここ数年、米国発の金融危機に端を発する主要各国のデフレリスクについて警鐘を鳴らしてきた。1990年代の日本のバブル崩壊とその後のデフレ入りを予見した炯眼の士に、世界同時デフレの可能性を聞く。
ビル・エモット氏 Photo by Justine Stoddart |
―世界同時デフレの可能性をどう見るか。
その問いに答える前に、デフレとは何かをまず理解してもらいたい。デフレとは、その名のとおり、物価が持続的に下落する経済状況を指す。需給バランスが崩れることが主因であり、物価上昇率の鈍化でもなければ、資源価格下落のような相場の問題でもなく、ましてや価格破壊と同義でもない。
その怖さは、ついこのあいだまで深刻なデフレを経験していた日本の政策担当者ならば、よくわかっていることだろう。物価が持続的に下落すると、企業の利益が減り、賃金の下落や失業、ひいては消費の減退と企業活動の縮小を招く。
とりわけ背筋が寒くなるのが「デット(負債)デフレ」で、物価の下落によって貨幣価値が上がることから、おカネを借りている個人や企業の実質的な返済負担が増えてしまう。
質問に戻れば、世界経済がこれほど深刻なデフレスパイラルに陥るかどうかの判断を下すにはさらに今後3~6ヶ月分の統計データが必要だ。ただ、数年内に、主要国がそうした状況に追い詰められる可能性は高まっている。なかには、半年以内にデフレに突入する国もあるかもしれない。
―その可能性が高い国とは?
日本だ。デフレから完全に脱していないまま、今回の金融危機の直撃を受けた。
2007年末から2008年前半に高まった日本のインフレ期待は、しょせんはエネルギーと食料の輸入価格上昇によるものにすぎない。国際商品市場が投機主導のバブルであり、早晩価格が半減するのは目に見えていた。賃金も上がっておらず、消費も弱いままの日本が世界経済の減速で真っ先にデフレ圧力に晒されるのは自明の理だ。